EV化や水素エンジンも。排出ガス規制で変わるバイクの在り方

EV化や水素エンジンも。排出ガス規制で変わるバイクの在り方

EV化や水素エンジンも。排出ガス規制で変わるバイクの在り方

「令和2年排出ガス規制」は、既に適用中の新型車に続き、2022年11月から継続生産車にも適用されます。過去の排出ガス規制では、人気モデルの生産終了といった影響もありました。今回の規制によって、バイクの在り方はどうなるのでしょうか。

4度目となる排出ガス規制。これまでの歴史と背景

4度目となる排出ガス規制。これまでの歴史と背景

2019年2月、国土交通省はバイクに関する排出ガス規制の改正を発表しました。2019年2月以降に生産されたモデル(新型車)は2020年12月から適用中、それ以前から生産されてきたモデル(継続生産車)は2022年11月より適用されることから、「令和2年排出ガス規制」とも呼ばれています。

では、具体的にどのような改正が行われたのでしょうか。バイクジャーナリストの相京雅行(あいきょう・まさゆき)さんに、排出ガス規制の歴史や背景などとともに、今回の規制について伺いました。

1998年、日本初となるバイクの排出ガス規制がスタート

1997年の「京都議定書(先進国の温室効果ガス排出削減目標を記した文書)」などをきっかけに、地球温暖化対策は世界的な課題となり、1998年、日本初のバイクの排出ガス規制が導入されました。

その結果、ホンダ「NSR250R」のような、吸気・圧縮と爆発・排気を2回の動作(ストローク)で行う「2ストロークエンジン」搭載車が続々と生産終了となり、ヤマハ「XJR400」やカワサキ「ゼファー400」などの吸気・圧縮と爆発・排気を4回の動作(ストローク)で行う「4ストロークエンジン」搭載車が主流になったのです。

2006年、厳しい数値が定められ、生産を終了するモデルが続出

バイク業界にとって大きな変革となったのが、2006年の制度改正です。排出ガス値の7~8割削減(車種や排気量による)という、非常に厳しい数値が設けられました。また、排出ガスの測定タイミングが、エンジンが起動後しばらく経って安定した「暖気モード」から、多くの燃料を消費するエンジン起動直後の「冷機モード」に変更されたのです。

このような厳しい基準をクリアするため、各メーカーはガソリンの噴射方法を従来のキャブレター式(負圧作用によってガソリンを吸い上げて噴射する方法)から、インジェクション式(コンピューターが車両を解析し、状況に応じて最適な量のガソリンを噴射する方法)へと変更しました。その結果、ヤマハ「XJR400」など多くのキャブレター車が惜しまれながら姿を消しました。

2016年、ヨーロッパ基準「ユーロ4」に準じた規制がスタート

2016年には、ヨーロッパの排出ガス規制「ユーロ4」に準じた規制の適用がスタート。基準値をオーバーした排出ガス(悪化レベル)の測定や回路故障などを自己診断する「OBDⅠ(車載式故障診断装置)」の搭載が義務化されました。また、PM2.5の原因とされる「燃料蒸発ガス(ガソリン蒸発後の気体)規制」も導入されています。

「ユーロ5」に準じた「令和2年排出ガス規制」とは

「ユーロ5」に準じた「令和2年排出ガス規制」とは

「令和2年排出ガス規制」は、2020年から導入されたヨーロッパの排出ガス規制「ユーロ5」に準じる内容となっています。最大のポイントは、「OBDⅠ」を高度化させたシステムであり、メーカーの垣根を越えて互換性が確保された「OBDⅡ」の搭載が義務化されたこと。また、不具合検知時の警告灯機能、アイドリング時に排出される一酸化炭素や燃料蒸発ガスの規制値の強化なども定められています。

「令和2年排出ガス規制」による影響

現行モデルの生産終了を不安視するライダーも多い中、相京さんは、「これまでの排出ガス規制の歴史と比較すると、今回の改正はさほど厳しくはありません。基準クリアのためのモデルチェンジは必要ではあるものの、1998年や2006年のときのように、カタログラインナップから現行モデルが大量に消えるといった心配はないでしょう」と予測します。

とはいえ、メーカーには規制に適応するための試行錯誤が求められます。新型エンジンの開発や、現行モデルでは旧型エンジンの改良が必要になるでしょう。莫大なコストがかかるため、「車両価格の上昇」というコスト負担は避けられません。一方で、グローバル基準の排出ガス規制を満たすことはもちろん、統一化されたOBDⅡの導入によって、メーカーの垣根なく車両の故障箇所や状況の車載診断ができるようになりました。どのお店にも持ち込みやすくなったため、メンテナンスの手間軽減や修理費用の削減が期待できます。

厳しさを増す規制によって、バイクの在り方はどうなっていくのか

厳しさを増す規制によって、バイクの在り方はどうなっていくのか

1998年の排出ガス規制から24年。規制値は徐々に厳しくなり、バイク業界を取り巻く環境にも様々な変化が生じています。EV化が推進される自動車のように、バイクの在り方も変わっていくのでしょうか。

EV化や水素エンジンの浸透

排出ガス規制のたびに進化を遂げてきたガソリンエンジンですが、相京さんは、今後は「EV化されたバイク」や「ガソリン以外を燃料とするエンジンのバイク」が主流になると予想しています。その背景には、例えば、小池百合子東京都知事が表明した「2035年までに、都内におけるガソリンを燃料とするバイク販売(新車)をゼロにする」など、国際的なカーボンニュートラルへの動きがあります。

排気量の小さいバイクから進むEV化

国内の主要メーカーであるカワサキ、ヤマハ、スズキ、ホンダでは、短い距離で日常使いされることが多い「原付一種(50cc以下のバイク)」や「原付二種(125cc以下のバイク)」が、EV化に対応しつつあります。その一方で、相京さんは、「ツーリングなどの趣味目的で乗られることの多い大型バイクは、航続距離の課題から、市場に出すのはまだ難しい」と予測します。

水素エンジンへの期待

ガソリンエンジンに替わる存在として、近年注目されているのが水素エンジンです。先述した主要メーカー4社も、連携しながら開発を進めています。相京さんは、「水素エンジンとガソリンエンジンは構成パーツの多くが共通しているため、水素エンジンは、日本が長年培ってきたエンジン開発のノウハウをいかせる分野でもある」と期待を寄せます。

EVバイク、水素エンジンバイクが浸透していく環境づくり

EVバイク、水素エンジンバイクが浸透していく環境づくり

EVバイクや水素エンジンバイクの普及にとって、航続距離や加速度といったバイク自体の改良だけでなく、エネルギーの供給場所を確保するなどの環境整備も重要になります。

EVであれば急速充電プラットフォーム、水素エンジンであれば水素ステーションが必要になりますが、いずれも費用がかかります。水素ステーションの場合、1ヵ所あたり約4億~5億円もの建設費用がかかると試算されており、この高額な費用がステーションの増設、ひいては水素エンジンの浸透の妨げにもなっています。

さらに、駐輪場の整備も必要になります。相京さんは、「コロナ禍でバイク人気が高まる中、出先で駐輪場に困ったという人も。駐輪スペースの整備については、民間だけでなく、自治体の協力が不可欠になるでしょう」と、官民連携の必要性を訴えます。

電動小型モビリティの浸透

電動小型モビリティの浸透

相京さんは、「電動キックボード」といった電動小型モビリティの普及にも期待しているといいます。電動小型モビリティは、2022年4月の道路交通法の改正によって、「運転免許やヘルメットを必要としない『特定小型原動機付自転車』に含まれる」と決まったばかり。話題性が高く、幅広い層から注目を集めています。

「電動キックボードの交通違反が散見され、規制緩和による諸問題は今後も発生し続けると思いますが、原付一種と比べても遥かに安価なのは大きな魅力です。バッテリーやモーターが進化し、電動小型モビリティの需要がさらに高まったときには、原付一種の絶滅もありえるでしょう」

運転免許不要でありながら最高速度は20km/hと、ちょっとした街乗りには十分な速度を発揮します。安全性がしっかりと担保され、駐輪できる場所もきちんと整えば、新しい移動手段として都市部や観光地などを中心に広がりを見せるはずです。

排出ガス規制で期待されるバイクの進化

排出ガス規制で期待されるバイクの進化

自分なりのカスタマイズや乗り方を楽しむだけでなく、環境に優しいバイクへ。相京さんをはじめとする「生粋のライダー」たちも、新たな排出ガス規制の導入によって進むEVバイクや水素エンジンバイクに熱視線を送っているといいます。すべてのライダーのために、そしてカーボンニュートラルの実現のために、バイクらしい走行性能と環境への配慮が両立する一台の開発が楽しみですね。

この人に聞きました
相京雅行さん
相京雅行さん
1980年、神奈川県川崎市生まれ。二輪ジャーナリスト。ウェブコンサルタントの仕事を経て、バイクパーツメーカーの立ちあげに携わる。同メーカーに10年勤務したのち、フリーランスとして独立。YouTubeチャンネル『アイキョウバイクチャンネル』も運営している。
ライタープロフィール
山本 杏奈
山本 杏奈
金融機関勤務を経て、フリーライター/編集者に転身。現在は企業パンフレットや商業誌の執筆・編集、採用ページのブランディング、ウェブ媒体のディレクションなど、幅広く担当している。

山本 杏奈の記事一覧はこちら

RECOMMEND
オススメ情報

RANKING
ランキング