ポストコロナにも通じる「働き方の未来2035」から、これからの社会を読み解く

ポストコロナにも通じる「働き方の未来2035」から、これからの社会を読み解く

ポストコロナにも通じる「働き方の未来2035」から、これからの社会を読み解く

コロナ禍により私たちの働き方は一変し、時間や場所に縛られない働き方を推進する企業も増えました。厚生労働省の有識者懇談会「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」のメンバーである東京大学大学院の柳川教授に、これからの働き方を聞きました。

厚生労働省がまとめた報告書「働き方の未来2035」

厚生労働省がまとめた報告書「働き方の未来2035」

厚生労働省の有識者懇談会「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」が、2035年における社会と働き方をまとめた報告書「働き方の未来 2035」。

これは2016年に公開されたものですが、「時間や空間に縛られない」「自由な働き方の増加が企業組織も変える」といった働き方や企業の在り方が提言され、コロナ禍による社会の変化にも通じる内容となっています。

少子高齢化と技術革新がもたらした働き方の変化

報告書では、働き方に変化をもたらす二つの要因が考察されており、一つ目が「少子高齢化」です。2035年、日本の人口は1.27億人(2016年時)から1.12億人に減少し、高齢化率は33.4パーセントまで拡大、少子高齢化により労働力人口の減少がより進むと予測されています。

労働力の確保や就業環境の整備が求められるため、高齢者就労や女性のより一層の社会進出などが解決策としてあげられています。さらに、柳川教授は「日本では育児や介護など様々な事情で、働きたいけれど働けない人が非常に多い。その層が働けるようになれば、人口が減少しても労働力人口を補うことができる。そのためには、復職制度を充実させ、出産や育児で退職した人たちが再度活躍する場を作るのも有効な手段」といいます。

二つ目は「技術革新」です。未来社会を考察するにあたっては、技術革新を踏まえることが不可欠で、具体的には「通信技術」「センサー」「VR(仮想現実)・AR(拡張現実)」「移動技術」「AI(人工知能)」があげられています。中でも「AI」は社会に大きな影響を及ぼすと考えられており、その分野は、広告やマーケティング、教育、金融、医療など多岐にわたります。また、定型的かつ多少の間違いが許容される業務はAIに代替されるとされています。

ただし、「面白いか」「美しいか」「美味しいか」など、人間性に基づくような価値評価が必要な仕事、コミュニケーションが重視される種類のサービス業、経営や企画に関わる仕事では、AIは人間の支援程度にとどまると考察されています。

柳川教授も、「どのような時代でも人と人とのコミュニケーションは必要で、重要なコミュニケーションをAIで代替することは不可能」といいます。例えば、空港で自動チェックイン機が普及する一方で、ファーストクラスなどは「カウンターで職員が丁寧に対応する」という付加価値をつけています。AI化が進むほど、人との接点が付加価値化するのです。

2035年の働き方はどうなるのか

2035年の働き方はどうなるのか

「働き方の未来2035」には、「時間や空間にしばられない働き方に」「より充実感がもてる働き方に」「自由な働き方の増加が企業組織も変える」など、コロナ禍の影響を受けたニューノーマルな働き方や企業組織に通じるものも盛り込まれています。柳川教授の解説とともに掘り下げてみましょう。

時間や空間にしばられない働き方に

ITの進化によって働く時間や場所に制約がなくなり、多くの仕事がいつでもどこでも行えると示されています。一方で、コロナ禍でリモートワークが急速に普及したため、業務管理や人事評価の難しさが浮き彫りになった企業もあるようです。柳川教授も、「リモートワークと出社の二つの働き方を導入している企業では、評価方法で試行錯誤している企業も目立つ。評価制度の整備も、新しい働き方における重要な課題」といいます。

また、社員が同じ空間で同じ時刻に働いていた時代は、「時間」が評価指標の中心であった一方、時間や空間にしばられない2035年の働き方では、「時間」だけでなく「成果」による評価が一段と重要になると考察されています。

より充実感がもてる働き方に

2035年には働く目的が「お金を得るため」だけではなく、社会貢献や地域との共生、自己の充実感など多様化すると予測され、自立した個人が多様なスタイルで活躍できる社会になると示唆されています。

柳川教授も「コロナ禍によるリモートワークの浸透で、人々の意識変化は加速し、働くことの定義や目的はますます多岐に渡っていくと考えられる。働かせる、働かされるという関係ではなく、個人が自律的に得意なことを発揮できる社会となる」といいます。

自由な働き方の増加が企業組織も変える

多様化したスタイル、自由な働き方の増加を背景に、2035年の企業はプロジェクトの塊のような存在になり、多くの人はプロジェクト期間中のみ企業に所属し、それが完了すると別の企業に所属するという働き方が主流になると示されています。組織の垣根は曖昧になり、「正社員」「非正規社員」といった概念も薄れゆくとされています。

柳川教授は「専門的な知識やスキルが求められ、例えば、A社に社員として所属しながらB社とはプロジェクトベースで仕事をするという働き方も考えられる。そのため、人の移動に関わる環境や制度の整備が重要となってくる」といいます。また、そのようなプロジェクトベースの働き方はコロナ禍以降、スタートアップ企業を中心に徐々に導入されつつあるようです。

日本では終身雇用や年功序列といった「日本的雇用慣行」が長きにわたり定着していました。しかし、柳川教授は「ビジネスや社会の動きが激しい時代においては、上手く機能しないだろう」と指摘します。組織の役割も大きく変化しつつあるのです。

新しい働き方を実現するために必要な制度とは

新しい働き方を実現するために必要な制度とは

「働き方の未来2035」は、多様で自律的な働き方を踏まえ、法制度などの見直しにも言及しています。

働く人が適切に選択できる情報開示

働く人が理想的な働き方を選べるように、企業には、労働条件だけでなくキャリアパスについての情報開示が求められるでしょう。さらに、企業の自主的な取り組みを促すだけでなく、法的に義務化することもあり得るとされています。

柳川教授は「2035年は転職の自由度も増している。そのため、情報開示はもちろん、契約の変更や再締結を円滑に行える仕組みなど、労働市場の変化に柔軟に対応できる体制や制度作りも不可欠」と提言します。

労働市場の変化による転職の自由度とセーフティネット

失業した人などがより適切な形で社会へ復帰できるセーフティネットの整備が重要になり、さらに、転職活動中の生活保障や転職のための休職などを積極的に支える仕組みも、これに含めるべきと考察されています。

柳川教授によると、北欧では、企業が社員を解雇しやすい一方、国による失業対策プログラムがしっかり組まれているそうです。これは「積極的労働市場政策」といい、失業保険で生活を保障しつつ手厚い職業訓練で再就職を促す制度で、「このような労働移動を効果的に進めるケースは積極的に見習うべき」といいます。

新しい働き方に合わせた社会保障制度

社会保障制度の再構築についても触れられています。従来の税制や社会保障制度は、世帯主が配偶者を扶養することを前提とした家族単位となっているため、個人単位に置き換えることが望ましいと提言しているのです。

どのようなスタイルで働いても税や社会保障が変わらない、つまり働く意欲を妨げないような制度整備が求められるとされています。柳川教授も「仕事への価値観は人それぞれですが、税制度や社会保障が働く意欲を妨げてはならない。能力がありながら、税金を抑えるためにパートやアルバイトを選ぶ人がいるのはもったいない」といいます。

まとめ

まとめ

こうして「働き方の未来2035」を紐解いてみると、その内容は、コロナ禍の影響を受けたニューノーマルな働き方や企業組織に通じるだけでなく、日本の社会が抱える課題も浮き彫りにしました。「コロナ禍によりリモートワークが浸透し、働き方の自由度が実感されたことは、未来社会に多大な影響を与えた」と柳川教授もいうように、日本人の働き方が転換期を迎えている今こそ、自分の働き方や将来を見つめ直す良い機会になるのかもしれません。

この人に聞きました
柳川範之さん
柳川範之さん
東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授
中学卒業後、父親の海外勤務の都合でブラジルへ。大検を経て慶應義塾大学経済学部通信教育課程入学、同課程卒業。1993年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。慶應義塾大学経済学部専任講師、東京大学大学院経済学研究科・経済学部助教授、同准教授を経て2011年より現職。新しい資本主義実現会議有識者構成員、内閣府経済財政諮問会議民間議員など。著書に『東大教授が教える独学勉強法』(草思社)、『法と企業行動の経済分析』(日本経済新聞社)など。
ライタープロフィール
松本 奈穂子
松本 奈穂子
メーカー、ITベンチャーを経てフリーライターとして活動。雑誌、書籍、ウェブ、フリーペーパーなどメディア全般を制作。ライフスタイル、旅、金融、教育など幅広い分野で取材・執筆を行う。共同著書に『いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日』『いちばん美しい季節に行きたい 世界の絶景365日』(パイインターナショナル)

松本 奈穂子の記事一覧はこちら

RECOMMEND
オススメ情報

RANKING
ランキング