文化資本ってなに?自らの意思や努力で主体的に獲得できるの?後編

文化資本ってなに?自らの意思や努力で主体的に獲得できるの?後編

文化資本ってなに?自らの意思や努力で主体的に獲得できるの?後編

前編で、学歴や芸術への感性といった「文化資本」は、親から相続されることを解説しました。では、それ以外の要因で文化資本を持つことは難しいのでしょうか。後編では、文化資本を自らの意思や努力で培っていくことについて解説します。

親の文化資本と子供の文化的経験の関係

親の文化資本と子供の文化的経験の関係

社会学者のピエール・ブルデューは、私たちが好きで選んでいる趣味、言葉の使い方や学習への態度などは育った環境によって左右されると論じています。「文化資本」と称されるこれらは、親から子供へと相続されるものが多い傾向があるということは前編で解説してきました。

自分の意思で文化資本を獲得していくことは難しい?

自分の意思で文化資本を獲得していくことは難しい?

ブルデューの理論は、文化資本は親からの相続によるところが大きく、本人の意思や努力では獲得できないとも解釈できます。つまり、文化資本の有無は世代をまたいで引き継がれるという考え方です。しかし、社会学者の片岡栄美さんは、「文化資本は必ずしも、親や育った環境だけで決定されるものではない」と話します。

「趣味や価値観の形成は親から相続されるものだけでなく、自分で獲得することも可能です。ブルデュー自身も、自らの才能と努力によって文化資本を獲得し、研究を通じて学問の世界に大きく貢献できたことが何よりの証明でしょう」

ブルデューが育った環境

ブルデューが生まれたのは、フランスの西南部。経済的にも文化的にも決して恵まれた家庭で育ったわけではないといわれています。そんな彼が、学校の先生の勧めでパリに出て勉学に励み、自身の努力によって社会学の分野で功績を残し、20世紀を代表する社会学者となったのです。

また、ブルデューのように名門校を卒業した高学歴者が文化資本を多く有するというわけでもないようです。例えば「ゴルフができる」「喜ばれる上品な飲食店を知っている」「美術品を持っている」といった幅広い趣味や知識、物を持つことは、社交において重要な文化資本となることがあるからです。そして、ゴルフならレッスンを受けたり、飲食店なら事前にリサーチしたり、美術展に頻繁に通ったりするなど、これらの文化資本は自らが主体的に獲得していくことが可能です。このことからも、文化資本は親から相続するかたちで蓄積されるものだけではないといえるでしょう。

ネット社会で文化資本の獲得機会は増えるか

インターネットやSNSの普及によって、世の中の様々な情報や価値観に触れる機会が増えました。多様な意見や考えを自らが主体的に知ることが可能になった一方で、「エコーチェンバー」といわれる情報や価値観への共感の偏りが懸念されることも確かです。

とはいえ、文化資本の視点から見ると、インターネットやSNSの普及は文化資本の蓄積に寄与すると期待されています。「この分野はこれから研究されていく段階」と片岡さんはいいますが、人々は属性や家庭環境に依存せず、横断的に多様なコミュニティと結びつくことで、文化資本を獲得する環境を得ることができると考えられているのです。

文化資本の獲得のために意識したいこと

文化資本の獲得のために意識したいこと

文化資本によって、話が合う・合わないだけでなく、職場の人間関係やプライベートで行動をともにすることが多い仲間やコミュニティなどが、ある程度傾向が見えることは十分予想されます。そのため、文化資本を主体的に幅広く獲得していくためには、一度立ち止まって、自分がいる環境やコミュニティを見渡すことも大切だといいます。

「私が調査した事例では、小さい頃からずっとスポーツに励んでいたある大学生が、海外留学を機に、自分たちとは異なる価値観に触れ、自分の生き方や進路に大きな影響があったケースなどがあります。『先輩達と同じように一流企業に勤めたい』『組織に貢献することが自分の目標』という他の部員と同じような判断基準ではなく、自分が本当にやりたい仕事や目標を見つけて卒業後の進路を選択したのです。もちろん、自分のいる環境が良い悪いの話ではありません。一歩外に出て、違う世界を体験することが、自分の文化資本を見つめ直す良い機会となるということです」

文化資本は育った環境の影響を強く受けるとされる一方で、決してそれがすべてではありません。他者とのコミュニケーション、読書や芸術鑑賞、習い事などによって多様な価値観に触れながら蓄積していくことができるのです。そうして培った文化資本は、自分の子供にもつながっていくかもしれません。自分や子供たちの未来が少しでも広がる可能性を見据え、文化資本を意識してみてはいかがでしょうか。

文化資本ってなに?自分の趣味や嗜好は子供に相続されるの?前編

参考:
・『趣味の社会学 文化・階層・ジェンダー』(青弓社)片岡栄美著
・『スポーツ社会学研究』29巻第1号『体育会系ハビトゥスにみる支配と順応―スポーツにおける「理不尽さ」の受容と年功序列システムの功罪―』(日本スポーツ社会学会)片岡栄美著
『ディスタンクシオン 社会的判断力批判〈普及版〉1』『ディスタンクシオン 社会的判断力批判〈普及版〉2』(藤原書店)ピエール・ブルデュー著、石井洋二郎訳
・『ブルデュー「ディスタンクシオン」講義』(藤原書店)石井洋二郎著
・『100de名著 ブルデュー「ディスタンクシオン」 2020年12月』(NHK出版)岸政彦著

この人に聞きました
片岡栄美さん
片岡栄美さん
駒澤大学文学部教授。専攻は文化社会学、社会階層論、教育社会学。著書に『趣味の社会学 文化・階層・ジェンダー』(青弓社)、共著に『変容する社会と教育のゆくえ』(岩波書店)、『文化の権力』(藤原書店)、『社会階層のポストモダン』(東京大学出版会)など。
ライタープロフィール
田中 雅大
田中 雅大
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション代表。関西学院大学卒業後、編プロ、マネー系雑誌等の編集記者を経て2014年設立。AFP認定者。

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