文化資本ってなに?自分の趣味や嗜好は子供に相続されるの?前編

文化資本ってなに?自分の趣味や嗜好は子供に相続されるの?前編

文化資本ってなに?自分の趣味や嗜好は子供に相続されるの?前編

社会学では、「文化資本」といわれる知識や感性、モノは、自分の意思だけではなく「家庭や育った環境によって相続される」とみる研究があります。前編では、専門家の解説とともに文化資本の性質などについて紹介します。

文化資本とは?

文化資本とは?

「文化資本」は、フランスの社会学者ピエール・ブルデューによって提唱された学術用語で(1)蓄積が可能、(2)自身の評価や所有価値などの利益をもたらす、(3)親から子供へ相続できる、という性質を持ち、書籍や絵画のような「有形」、芸術に対する感性や言語能力のような「無形」を問わず、文化に関わる所有物を指す言葉として広く定義されています。具体的には以下のような例があげられます。

・書物や絵画、楽器などの物資として所有可能な文化的財物
・一部の芸術(例:絵画やクラシック音楽)やスポーツ(例:乗馬やゴルフ)などに関する知識や技能、理解できる感性
・言語能力や学習に対する態度や意欲
・学歴や資格

親の影響や育ってきた環境に左右される

注目すべき性質が、(3)の「親から子供への相続」です。食事中のマナーや挨拶の仕方といった社会的な行儀作法については前述した文化資本の範疇ではありませんが、幼少期に親から教わったり真似をしたりして覚えた人は多いでしょう。それと同様に、小さい頃からクラシックコンサートや美術展に連れて行ってもらった、家にたくさんの蔵書があったなど、身近なところに文化的経験があった人ほど、文化資本が蓄積されやすくなるのです。

例えば、ヴァイオリンの演奏がどれほど上手なのか、聞いてきた経験が少なければ判断が難しく、そのような「経験の積み重ね」が重要となってきます。その他にも、以下などは文化資本が相続されたと解釈することができます。

「子供の頃、親が聴いていたクラシック音楽を、自分も大人になってから聴いている」
「壁に飾ろうと購入した絵画が、実家にあるものとよく似ていた」
「親から買ってもらった書籍を、自分の子供にも読ませたい」

文化資本の研究に携わる社会学者の片岡栄美さんは、「自分が好んで選択しているはずの行動は、よくよく考えると過去の体験と結びついていることが珍しくない」といいます。「三つ子の魂百まで」のように、何かを美しい、素晴らしいと感じる感性は、幼少期から形成された文化資本によって大きく左右されているのです。

文化資本は嗜好性や価値観を構成する要素になる

好き嫌いの感覚は数値で測ることはできません。ただ、「あの音楽はよく聴くけど、この音楽はほとんど聴かない」「あの絵には惹かれるけど、このデザインには惹かれない」など、個々人の嗜好性や価値観によって、ざっくりと同じ傾向を持つ集団に分類することはできます。

そのような分類は、社会学において「ハビトゥス」と呼ばれ、判断や行為についての「傾向」を意味します。このハビトゥスも、家庭など育ってきた環境から大きな影響を受けていると考えられ、ハビトゥスを構成する一つの要素が文化資本になります。

例えば「J-POPよりクラシック」「スニーカーよりハイヒール」「野球より将棋」という価値観は、その人のハビトゥスによって動かされていると説明されます。また、学習のために机に向かうというような慣習行動もハビトゥスによって説明できるものです。

文化資本が違うと人生の選択肢も変わるのか

文化資本が違うと人生の選択肢も変わるのか

文化資本や前述したハビトゥスによって、ライフプランへの影響は十分に考えられます。参考として、一例をあげてみましょう。

・学歴や進路
「分からないことがあったら辞書で調べる」「自分から進んで宿題を終わらせようとする」といった慣習行動は、その人のハビトゥスです。結果として、文化資本である学歴や進路にも影響することが予想されます。

・友人との交流
共通の趣味や話題があれば、友情を育むことにつながります。よって、文化資本やハビトゥスは「誰と仲良くなれるか」にも深く関係することが考えられます。

・住む場所
「文化発信地である都心部に住みたい」「自分の幼少期と同じように子供にも自然を身近に体験させたい」といった意向次第で、居住エリアの選択肢も変わります。

・職業
「小さい頃読んでもらっていた図鑑で興味を持ち、生物学者になった」「人命を救う医師である親の影響で、自分も医療の道に進みたいと思った」など、育った環境と職業を希望する動機が深く結びつくケースは十分に考えられます。

・パートナー
同じような価値観や嗜好性を持つ者同士が愛情を育みやすいことは、自然とイメージがつくでしょう。また最近は減りましたが、お見合いにおいては経済資本や文化資本的な側面を重視する風潮もあります。

親から何を相続し、自分は子供に何を相続できるか

親から何を相続し、自分は子供に何を相続できるか

前述の通り、自分の嗜好性や価値観について、「あのスポーツが好きなのはなぜか」「この居住地を選んだのはすぐ近くに美術館があったから」「どうして今の職業を選んだのか」など、一度向き合ってみるのもいいでしょう。

それは、自己理解を深めるだけでなく、親から何を文化資本として授かったのか気づく機会になります。そして、自分が子供に何を引き継ぐことができるのか、考えるきっかけともなるでしょう。

時代によって文化資本の内容は変化します。特定の作品や音楽に対する嗜好性や価値観、習慣などがそのまま子供に相続されるとは限りません。ただ、絵本を読み聞かせる、演奏会に一緒に行くといったことを通じて、文化への関わり方や価値観、嗜好性などの基準が相続されるのです。これをブルデューは、『獲得方式の差異は、それを使用する方式の中に生き続ける』と述べています。

ブルデューの言葉は難解ですが、つまり、子供が親と同じ嗜好性や価値観を得るのかは不明だが、文化資本とどう接していくのか、どう関わっていくのかは相続されるというわけです。親が自分に対してしてくれたように、子供や孫へと読書や音楽、芸術体験や学習機会などを与えたいと考える人にとって、この指摘はポジティブに受け止めることができるでしょう。

ただ、その一方で、親の嗜好性や価値観に縛られず自由に育って欲しいと考える人や、自ら文化資本を獲得したいと考える人もいるでしょう。後編では、「文化資本は、親から引き継がれるだけでなく、子供が自分の意思で主体的に獲得することはできるのか」について考えてみます。

参考:
・『趣味の社会学 文化・階層・ジェンダー』(青弓社)片岡栄美著
・『ディスタンクシオン 社会的判断力批判〈普及版〉1』『ディスタンクシオン 社会的判断力批判〈普及版〉2』(藤原書店)ピエール・ブルデュー著、石井洋二郎訳
・『ブルデュー『ディスタンクシオン』講義』(藤原書店)石井洋二郎著
・『100de名著 ブルデュー「ディスタンクシオン」 2020年12月』(NHK出版)岸政彦著

この人に聞きました
片岡栄美さん
片岡栄美さん
駒澤大学文学部教授。専攻は文化社会学、社会階層論、教育社会学。著書に『趣味の社会学 文化・階層・ジェンダー』(青弓社)、共著に『変容する社会と教育のゆくえ』(岩波書店)、『文化の権力』(藤原書店)、『社会階層のポストモダン』(東京大学出版会)など。
ライタープロフィール
田中 雅大
田中 雅大
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション代表。関西学院大学卒業後、編プロ、マネー系雑誌等の編集記者を経て2014年設立。AFP認定者。

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