「農業×福祉」を後押し。障がい者が携わった食品を認証する「ノウフクJAS」とは?

「農業×福祉」を後押し。障がい者が携わった食品を認証する「ノウフクJAS」とは?

「農業×福祉」を後押し。障がい者が携わった食品を認証する「ノウフクJAS」とは?

「ノウフクJAS」という規格をご存じでしょうか?「障がいのある方が生産行程に携わった食品」を評価する規格で、農林水産業と福祉の連携を促進する一環として定められました。この記事では、ノウフクJASが社会に与える影響について解説します。

JASの新規格「ノウフクJAS」とは?

JASの新規格「ノウフクJAS」とは?

「ノウフクJAS」とは、2019年3月29日に日本農林規格(JAS)の一つとして新たに制定され、同年11月から認証が始まった規格です。正式名称は「障害者が生産行程に携わった食品の農林規格(平成31年3月29日農林水産省告示594号)」といいます。

「障がいを持った方が農林水産業における生産行程に携わった生鮮食品及びこれらを原材料とした加工食品」を生産する事業者が認証の対象となり、農林水産業と福祉の連携を促進するとともに、障がい者が生産に携わっている生産品の価値を高める目的があります。

ちなみにJASは、「日本農林規格等に関する法律(JAS法)」に基づいて、食品・農林水産品の均一的な規格(JAS)を制定・認定している制度です。ただし、ノウフクJASでは、JASに則った一定基準の生産品であることを示す一方で、生産品の均一的な規格で示される「モノの価値」より、多様性やブランド力などの「社会的な価値」を重要視しています。

ノウフクJASが農業へ与える影響

ノウフクJASが福祉業界へ与える影響

ノウフクJASが広まることで社会に与える影響は様々。ここでは、農業に与える影響を解説します。

後継者や農業就業人口の増加

少子高齢化や若者世代の都市部への流出などの要因から、農業では、後継者の高齢化や農業就業者不足が顕著になっています。農福連携が活発になり、障がい者雇用が増加すれば、農業就業人口の増加が期待できるのではないでしょうか。

耕作放棄地の活用につながる

障がい者雇用による農業就業人口の増加は、農業の担い手不足や高齢化の影響で増加している耕作放棄地(過去1年以上作物が栽培されていない農地)の活用につながります。

耕作放棄地が活用されることで、鳥獣が住み着いたり、不法投棄が増えたりといった問題が解決され、耕作地では雨水を貯留して洪水を防止する役割を果たすことができるようになるため、災害の危険性を減らすことも期待されています。

食料自給率の向上

近年、日本の食料自給率は約40パーセントで推移しています。農業就業者の増加は、農産品の安定的な確保にも寄与できるため、食料自給率の向上にもつながります。

収益性の向上

障がい者が携わった食品であることがノウフクJASマークによって明確になるため、社会貢献意識のある小売店や消費者に選択してもらいやすくなります。

農林水産省が発表した「平成30年度 農福連携の効果と課題に関する調査結果」によると、障がい者の就労受け⼊れと収益の関係について、収益に「⼤きな効果あり」「効果あり」「どちらかといえば効果あり」と回答した事業者が87パーセントとなっています。同調査によると、その要因として「人材として貴重な戦力」「農作業人材の確保によって、営業に割ける時間が増えた」といった労働力に関する効果だけでなく、「作業の見直しによる効率化」「組織体制の⾒直しによる組織⼒向上」といった効果などもあげられています。

ノウフクJASが福祉業界へ与える影響

ノウフクJASが福祉業界へ与える影響

次に、福祉業界や障がいの当事者に与える影響を解説します。

雇用の拡大

民間企業や行政機関における障がい者の法定雇用率は、「障害者雇用促進法」で定められています。雇用率自体は毎年増加しているものの、2020年の法定雇用率を達成している割合は、国・都道府県・市町村の公的機関においては70パーセント以上ですが、民間企業においては48.6パーセントにとどまっています。

ノウフクJASによって農福連携の認知が広がるとともに社会的価値が高まることで、障がい者雇用の意識向上が期待できるでしょう。

賃金の増加

先に述べた収益性の向上や雇用拡大に伴う生産力の高まりなどによって、農業従事者の賃金増加が期待できます。農林水産省「平成30年度 農福連携の効果と課題に関する調査結果」によると、農福連携に取り組む福祉事業所では、過去5年間で賃金が「増えてきている」との回答が74パーセントにものぼりました。

その増加率は他業種の賃金増加率よりも低い水準ですが、農福連携に取り組む事業者のうち約70パーセントが直近10年以内に取り組みを開始していることを鑑みると、効果は今後さらに現れてくると考えられます。

働きがい、やりがいの創出

障がい者は、自らが携わる食品がノウフクJASに認証されることで、勤務先だけでなく農業全体への貢献といった実感を得られることでしょう。社会貢献の一助となっている意識が、働く意味ややりがいを見出す一因となるのではないでしょうか。

また、ノウフクJASの認証を受けるには、障がい者が作業しやすい環境作りを実施している事業者であることが求められています。そのため、認証事業者や認証を目指す事業者が増えることは、障がい者にとって働きやすく、やりがいも得られるような職場が増えることでもあります。

身体的、精神的な健康につながる

農林水産省「平成30年度 農福連携の効果と課題に関する調査結果」によると、農業に携わった障がい者には「体力がついた」「よく眠れるようになった」といった身体的な効果だけでなく、「表情が明るくなった」「感情面で落ち着いた」といった精神的な効果が得られたとの回答が見られます。

農林水産業に限った話ではありませんが、障がい者の雇用拡大とその社会的認知が高まると、障がい者は労働者として社会に参加している実感を持てるようになり、上記のような精神的な健康にもつながっていると考えられます。

ノウフクJASが企業へ与える影響

ノウフクJASが企業へ与える影響

ビジネスの成功だけを追求する企業は、社会において支持されません。社会の一員としての企業活動が求められる中、ノウフクJASは企業にどのような影響をもたらすのでしょうか。

企業が果たすべき責任の一環となる

企業が果たすべき社会的責任である「CSR」(Corporate Social Responsibility)と、社会的なニーズや課題に取り組むことで社会的責任とともにビジネス的効果も生む「CSV」(Creating Shared Value)。これらは、企業に求められる社会的な存在価値であり、ノウフクJASへの取り組みや認証事業者への支援・協業などは、その価値を生み出す一つの手段となり得るでしょう。

ESG投資における評価

昨今注目されている「ESG投資」。企業の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に対する経営的な姿勢も考慮して投資先を評価しようという考え方です。

社会的意義や持続性のある社会への取り組みなどに積極的な企業は、優れた投資対象先であると評価され、2020年から2021年にかけて、ESG関連の投資信託市場規模は倍増するとの予測もなされています。

農福連携はESGのうち、環境(Environment)・社会(Social)の要素を満たしています。そのため、ステークホルダー(※)からの評価を得るだけでなく、投資家からの注目も高まると考えられます。

※ステークホルダーとは、企業活動などにおける取引先企業や顧客、株主、自治体、地域住民といった何らかの影響や関係性がある先を指します。

ノウフクJASの認証事業者

ノウフクJASの認証事業者

実際にノウフクJASの認証を取得した事業者と、その影響について見てみましょう。

長野県松川町:株式会社ウィズファーム

2019年にノウフクJASを取得した株式会社ウィズファーム。りんごをはじめ、ぶどうやブルーベリーなどの農作物を栽培しています。

松川町はりんご栽培が盛んなため、生産者間の不公平を生み出さないよう、地元で人気の温泉施設ではりんごの販売は行っていませんでした。しかし、ノウフクJASの認証を受けた同社のりんごは社会貢献度が高いことが付加価値となり、取り扱ってもらえるようになったそうです。

京都府京田辺市:さんさん山城

2019年にノウフクJASを取得した就労支援事業所「さんさん山城」。宇治抹茶や万願寺とうがらし、田辺茄子といった地域の特産品の栽培と、それらを使った加工品を製造しています。

ノウフクJASの取得後、ミシュランに掲載される老舗料理屋や一流フレンチレストランでの取り扱いが決まるなど販路が拡大したそうです。

認証された食品はどこで買える?消費者として応援できること

認証された食品はどこで買える?消費者として応援できること

ノウフクJASの認証を受けた食品は、スーパーやデパートなどで取り扱われています。気軽に購入できるので、農福連携を通じて将来世代の社会や多様性へ取り組みを応援することができます。

また、生産品の背景を知ることが消費行動につながる可能性があるように、まずは一人ひとりが今ある社会課題に気づくことが大切です。いきなり世の中を大きく変えようとしなくても、ノウフクJASを知ることや日常のささいな行動が、未来のより良い社会を築く第一歩になるでしょう。

参考:
一般社団法人 日本基金「ノウフクWEB」(外部サイト)
一般社団法人 日本基金「障害者が生産行程に携わった食品の生産行程管理者」(外部サイト)
農林水産省「平成30年度 農福連携の効果と課題に関する調査結果(外部サイト)

ライタープロフィール
吉村 しおん
吉村 しおん
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。文系大学院修了後、企業ブランディング書籍の営業・編集を経て入社。各種メディア記事の編集・ライティングを担当。

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