進化するチャリティの形。「ながらチャリティ」で明るい未来を作る。

進化するチャリティの形。「ながらチャリティ」で明るい未来を作る。

進化するチャリティの形。「ながらチャリティ」で明るい未来を作る。

チャリティを日本に根付かせる有効な手段に「スポーツチャリティ」があります。今回はスポーツをしながらできるチャリティの事例を紹介。さらに、スポーツチャリティに積極的に取り組む事業を担当する東京マラソン財団の山本悦子さんにお話を聞きました。

世界人助け指数の「人助け」項目において日本は最下位

CAFというイギリスのチャリティ団体が発表している、先進国を対象にした「世界人助け指数」というランキングがあります。そこで日本人にとってショッキングな結果が出たのをご存じでしょうか。

そのランキングの3つの項目と、全114ヵ国の中での日本の順位は以下の通りです。

項目順位(114ヵ国中)スコア
ボランティア時間91位12パーセント
寄付107位12パーセント
人助け114位(最下位)12パーセント

出典:CAF WORLD GIVING INDEX 2021(2021),Charities Aid Foundation

「ボランティア時間」の項目は、聞き取り調査時までの1ヵ月間でボランティアをしたと回答した人の割合、「寄付」の項目は、聞き取り調査時までの1ヵ月間で寄付をしたと回答した人の割合、「人助け」の項目は聞き取り調査時までの1ヵ月間で第三者を助けたと回答した人の割合です。

おもてなしの国であるはずの日本が「人助け」の項目で最下位となったのは残念なことです。

ただし、これはあくまでも2020年に行われた調査。これから順位があがっていく可能性は十分にあります。

将来の日本に希望を抱けるのには理由があります。なぜなら、「スポーツチャリティ」の取り組みが少しずつ広がっているからです。

スポーツチャリティとは?

「スポーツチャリティ」というのは、読んで字のごとくスポーツを通して行うチャリティのことですが、その形態は様々です。アスリートが中心になって行われる物や、プロスポーツチームが音頭を取る物などがあります。また、一般の方たちの参加をメインとしたチャリティも存在します。

具体的な例を見てみましょう。

日本でも広がるスポーツチャリティの事例

日本でも広がるスポーツチャリティの事例

「ACEチャリティフットサル大会」は2002年から行われている、日本のスポーツチャリティの草分け的存在ともいえます。大会を開催することで得られる収益や寄付などが、世界の子供を児童労働から守るために役立てられています。

WFP(国際連合世界食糧計画)が行う「WFPウォーク・ザ・ワールド」は、途上国の子供たちを飢餓から救うことを大きな目的としたスポーツチャリティです。ウォーキングをする大会で、これまで横浜や大阪で開催されてきました。その参加費の一部としての寄付がこのチャリティの柱です。

また、大都市で開催されるイベント以外でも、ウォーキングを通じたチャリティに自主的に取り組むことも「WFPウォーク・ザ・ワールド」は推奨しています。その自主的な取り組みを推進するためのアンバサダー的な存在として、アスリートが「自主開催サポーター」として活躍しています。

これは一般の参加者がメインであるものの、アスリートも積極的に関わる形式のチャリティといえるのかも知れません。

日本のスポーツチャリティに積極的に取り組む東京マラソン

日本のスポーツチャリティに積極的に取り組む東京マラソン

東京マラソンは、一般の人が参加できる日本のあらゆるスポーツイベントの中でも、1、2を争う人気と注目を集めています。2019年の東京マラソンでは、一般募集の定員2万7,370人に対し33万271人の応募となりました。

新宿の高層ビル群から、浅草のような下町、そして皇居の近くの広い空を拝めるエリアまで、様々な表情のある東京の魅力を堪能できるコースや、ボランティアが作り出すポジティブな雰囲気が東京マラソンの魅力としてあげられます。

そんな魅力で多くの人を引きつける東京マラソンは、スポーツの場だけでなくチャリティの場としても注目を集めています。

そこで今回は、東京マラソン財団の社会協働事業本部の本部長である山本悦子さんに東京マラソンにおけるスポーツチャリティについてお話を伺いました。

東京マラソンのチャリティランナーが人気の理由

山本さんは2007年の東京マラソンの第1回大会ではボランティアセンターのスタッフを務めました。その後、ボランティアセンター長などを経て、2021年の4月から現職についています。山本さんのいる社会協働事業本部はチャリティ事業とボランティア事業を担当しています。

東京マラソンでは、チャリティ活動が盛んです。その中で最もイメージしやすいのが、「チャリティランナー」という仕組みでしょう。

東京マラソンの一般ランナーは、高倍率の抽せんに当せんして初めて、出走する権利を得られます。それに対して、「チャリティランナー」は一定額の寄付(2019年大会では10万円以上)をすることで、出走する権利を付与されます。その寄付は、財団を通して様々な団体に送られます。

この取り組みは非常に好評で、寄付を受けたい団体からの問い合わせが絶えない状態だといいます。また、チャリティランナーを希望する人の数は年々増えており、「うれしい悲鳴」があがるほど多くの希望者がいるそうです。

山本さんは人気の理由をこう分析しています。

「自分のために走るという『楽しい行動』が『誰かの幸せにつながっている』と感じられるからだと思います」

これは、東京マラソンのボランティアが「自分も主役の一人だ」と自覚して行動していることにも通じる点だといいます。「チャリティランナー」になる人たちも、自分が楽しむことでチャリティをしようと考えているのです。

ボランティアスタッフが温かい雰囲気づくりに貢献

また、東京マラソンのボランティアのポジティブな雰囲気について、以前はその一員だった山本さんはこう話しています。

「一般的には、ボランティアは社会課題を解決する人という側面が注目されがちですが、東京マラソンのボランティアは笑顔とホスピタリティーにあふれています。それが皆さんにとって印象的なようですね。ボランティアの活動はランナーを『支える』ことですが、誰かのためにという意識だけではなく、その活動をする自分自身が楽しむことを前面に押し出して活動してもらっています。『自分も東京マラソンの主役』という意識で、思い切り楽しんでもらっており、それが東京マラソンの良い雰囲気につながっているのではないでしょうか」

このようなボランティアが作り出す雰囲気も、チャリティ意識の高まりに貢献しているのかもしれません。

日本でのスポーツチャリティの可能性と課題

このように東京マラソンは多くの参加者を集めているわけですが、この先の日本ではチャリティ活動がさらに活発になる可能性を秘めていると山本さんは感じているそうです。

「海外と日本ではチャリティへの意識や規模のレベル感が違うような気がしてしまうこともあります。ただ、必ずしもそうではないかもしれません。例えば、昔から日本には、お祭りや学校への寄付をするという文化があります。神社などに寄付された方の名前が書かれていたりもしますよね。ですから、誰かのために寄付したり、チャリティをしたりする活動は日本でも十分に受け入れられる物であると考えています」

だからこそ、山本さんは今後の課題を強調します。

「東京マラソンを走る皆さんの楽しむ力は、本当に困っている人たちを助ける様々な取り組みの原動力になっています。このチャリティや寄付をさらに前進させるために、皆さんからの寄付を受け取る団体がどのような活動をしているのか、皆さんの寄付がどのような形で社会のためになっているのかを、もっと広める必要があると感じています。それができれば、走ることや楽しむことが世の中を変えるものすごい力になるということを、これまで以上に理解してもらえるようになると思いますし、『またチャリティで走りたい』という動機付けになると考えています」

日常的にスポーツチャリティができる環境づくり

また、東京マラソンというビッグイベント以外でも、チャリティを経験できる仕組み作りを進めているそうです。例えば、「RUN with HEART(外部サイト) 」というチャリティ事業。この事業に関する新しいウェブサイトが2021年10月27日に立ちあげられました。

「RUN with HEART」事業では、年間を通して気軽に参加できる寄付プログラムの提供や社会貢献の機会や暮らしをより良くするきっかけを作ることをめざしているそうです。

「例えば、走ることで健康が促進される可能性がありますよね。健康な状態を維持することは、自分自身だけでなく周囲の方の幸せにもつながると思います。なので、『RUN with HEART』事業を『走れる幸せを誰かの幸せに繋げよう』というテーマでやっていこうと考えています」

スポーツ界を筆頭に、世界のどこかで困っている誰かのために寄付やボランティアなどのチャリティをする動きは日本でも広がりつつあります。そして、チャリティに積極的な東京マラソン財団のような団体が、この動きをさらに加速させようとしています。

「ながらチャリティ」のように気軽にチャリティを行うことができる機会が増えることで、冒頭であげた調査による統計では最下位だった「人助け」の順位も、これからあがっていくことが期待できるのではないでしょうか。

スポーツチャリティという形で、より良い社会作りに貢献するということもお金の使い方の一つの選択肢として考えると、皆さんだけではなく、未来の子供たちが暮らす日本をさらに豊かにすることにつながるかもしれません。

ライタープロフィール
ミムラユウスケ
ミムラユウスケ
2009年1月にドイツへ移住し、ドイツを中心にヨーロッパで取材をしてきた。Bリーグの開幕した2016年9月より、拠点を再び日本に移す。以降は2ヵ月に1回以上のペースでヨーロッパに出張し、『Number』などに記事を執筆。サッカーW杯は2010年の南アフリカ大会から現地取材を継続。内田篤人との共著に「淡々黙々。」、著書に「千葉ジェッツふなばし 熱い熱いDNA」、「海賊をプロデュース」。岡崎慎司選手による著書「鈍足バンザイ」の構成も手がけた。

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