2025年に起こり得る医療と介護の問題とは

団塊世代が75歳以上になる2025年には、日本の高齢化率は30%を超えると試算されています。一方、少子化の影響により高齢者を支える現役世代の人口割合は年々低くなっており、2025年には1.9人が1人の高齢者を支える状況となります。
そのため、現状の社会保障体制では増え続ける高齢者を支えることが難しく、このままでは以下のような問題が起こるといわれています。
後期高齢者の医療負担が増える
私たちが病院で医療費を支払うとき、その医療費は公費と自己負担額で形成されています。高齢期には病気やケガなどにより、病院を受診する機会が増えます。実際に、最も多く国民医療費がかかっているのは65歳以上の高齢者で、全体の60%を超えています。また、一人あたりの国民医療費では75歳以上の高齢者が最も多く、1年間で約92万円となっています。
しかし、現役世代からの税収は年々減少傾向にあり、税率をあげても必要となる税収には到底足りないのが現状です。
そのため、政府は後期高齢者の自己負担額を原則1割から2割へ引きあげる方針を固めており、2022年には実施されます。さらに、厚生労働省は医療費抑制の対策として、公立・公的病院の再編成検討を各自治体に打診しており、その数は400を超えています。
地域によっては病院不足に陥る可能性もあり、病院受診の交通費がかさむことや患者のたらい回しが起こることが懸念されています。
出典:社会保障改革の全体像|厚生労働省(外部サイト)
介護の人材不足が深刻化
慢性的な人材不足に悩む介護業界では、さらに人材不足が深刻化するといわれています。
2025年度に必要な介護人材は約245万人といわれており、現状ではあと約55万人の介護人材を確保しなければなりません。政府は介護人材の確保に向けて外国人材の活用や採用の裾野を広げるなど、様々な施策を実施しています。
しかし、介護人材確保数が高齢者の増大に追い付いていないのが現状です。介護人材不足が深刻化すれば、介護サービスの質が低下することや施設入所が難しくなる可能性が高くなるでしょう。
2025年問題対策のカギは「地域」

2025年に起こる可能性がある様々な問題について、政府も対策を検討しています。特に介護と医療の問題においては、次に示すように「地域」に重点を置いた方針を掲げています。
介護分野では「地域包括ケアシステム」で総合的な支援を実施
介護分野では、重度の介護状態となっても住み慣れた地域で最期まで暮らし続けられるよう、医療や介護だけでなく生活支援なども含めた総合的な支援を行うシステムを構築しました。
このシステムを「地域包括ケアシステム」といい、地域の特性に合わせてそれぞれの自治体が独自の取り組みを行っています。例えば、東京都豊島区では、介護保険サービスと介護保険外のサービスを自由に組み合わせることができる「選択的介護」をモデル事業として行っています。また、離島や山間部など小地域に合わせた取り組みを行う自治体もあります。
出典:「選択的介護」に係るモデル事業実施に向けた基本的な考え方|豊島区(外部サイト)
医療面では「地域完結型」へ方針転換
従来の医療では、患者の病気やケガを病院だけで治す「病院完結型」という考え方が主流でした。
しかし、増え続ける医療費抑制の対策として、入院加療から在宅医療に主軸が置かれるようになりました。その結果、住み慣れた地域で生活しながら治療を続ける人が増え、病院完結型というモデルが機能しにくくなってきています。
そこで、国は地域全体で治し支える「地域完結型」へ方針を転換し、早期の在宅復帰や社会復帰をめざす方針を定めました。実際に、関係専門職がチームを組んで治療を行う「地域医療支援病院」へシフトする病院も増えてきています。
2025年問題で私たちができる3つのこと

2025年問題に向けて、政府だけでなく介護や医療の現場でも様々な対応策を講じる動きが出てきています。しかし、私たちも個人レベルで対策をしていくことが重要です。私たちができる対応策には次の3つがあります。
健康を維持しよう
介護費や医療費の引きあげが実施された場合、最も自己負担が軽くなるのは健康な人です。高齢になると思わぬ病気やケガで病院受診する確率はあがります。
しかし、普段から心身の健康を心がけることにより、介護費や医療費を抑えることは決して難しいことではありません。規則正しい生活や栄養バランスの取れた食事を心がけ、できる限り長く健康を維持することに努めましょう。
地域とのつながりを持とう
高齢になると、家族以外の人との関わりが面倒になってくる人も少なくありません。
実際に、内閣府の調査(外部サイト)では60歳以上の約4割は「社会的な活動をしていない」と答えています。この背景には、高齢者のみの世帯や一人暮らしの高齢者が増加しているという現状があります。
高齢者のみの世帯や一人暮らしの高齢者の場合、心身状態などから地域とのつながりが希薄になっている場合も多く、いざというときに相談したり頼ったりする相手がいないということもあります。しかし、地域とのつながりを持っている人であれば、いざというときに頼ることもでき迅速な対応ができるでしょう。
国も地域を重視した対応を進めていることもあり、今後は地域とのつながりが大きな役割を果たすと考えられます。今のうちから地域とつながりを持っておき、これから起こり得る社会の変化を周りの人の協力を受けながら乗り越えていくことが大切といえるでしょう。
収入源を確保しよう
医療費や介護費の自己負担額が増えることに備えるためには、収入源を確保しておくことも重要です。すでに年金支給年齢は段階的に引きあげが実施されており、今後は更なる引きあげが行われることも想像に難くありません。また、年金額そのものも年々減少傾向にあることから、高齢期においても収入源を別に確保しておくことが大切になります。
現在、いくつかの業界では高齢者の雇用も検討されていることから、心身ともに健康なうちは働くという選択肢を持つことも有効な手段の一つです。また、働き続けることで生きがいができ、心身の健康につながるという側面もあります。
2025年問題に向けて今日から備えよう

世界でも類を見ないスピードで超高齢社会へ突入する日本において、2025年は大きな節目を迎える年です。私たちの生活に直結する介護や医療の現場も、大きく変化していく可能性があります。2025年問題が迫ったときに慌てないよう、今日から少しずつ自分にできることから備えていきましょう。
ライタープロフィール

介護コラムニスト。介護福祉士。現役だからこそ得られる新鮮な情報と長年の知識、技術をもとにした介護コラムを執筆。介護職初心者から経営者向け、介護している人向けなど、介護全般の記事が得意。
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