非接触型ショッピングの普及

かねてより導入が進められてきた非接触型ショッピング。利用者にとっては、会計にかかる時間の短縮やポイント管理がしやすくなるといった利便性の向上が、一方の店舗(事業者)にとっては、レジに係る手間が省けることで業務の効率化や生産性の向上が期待されています。
実際、経済産業省が主導して2019年10月から翌年6月まで行われたキャッシュレス・ポイント還元事業には、消費喚起以外にも、キャッシュレス導入による利便性や生産性の向上といった目的がありました。
コロナ禍で加速した非接触型ショッピング
2020年になると、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、接触を伴わない非接触型ショッピングのニーズがさらに高まりました。
株式会社電通が2021年1月29日に公表したレポートによると、生活者の47.7パーセントが緊急事態宣言以降、キャッシュレス決済の比率が増えたと回答しています。また、株式会社マネーフォワードが実施した「コロナ禍の個人の家計実態調査」では、コロナ禍でキャッシュレス決済の利用が増えたと回答している人のうち、約71パーセントが感染防止の観点から接触時間を短縮させる目的も持って使用していると返答しています。
そのような利用者の増加を背景に、事業者には、接客レベルや顧客満足度の維持、新しいシステムの導入などが求められています。どのような取り組みが行われているのか、具体的な事例を見てみましょう。
会計まで自動で行える、無人のコンビニエンスストア

試験的に導入されつつある無人のコンビニエンスストア。例えば、利用客が入店すると、天井に設置されたカメラが利用者を認識。商品を取ると、利用客の位置情報と商品棚のセンサーによって、どの商品が取られたのかを把握します。レジでは利用者が持っている商品が一覧で表示され、店員がいなくても電子マネーなどで会計が完了できます。
年齢確認が必要なアルコール類などの購入もできます。その際は、バックヤードに控えている店員がカメラの映像を通じて、目視による年齢確認を行います。商品補充やトラブル対応など、店員が必要となる場面は他にもあるようですが、基本的には非接触でショッピングを済ませることが可能です。
機械が足のサイズを測定してくれる、無人の靴屋
無人の靴屋もあります。利用者は入店後、店内の空間に投影される非接触型タッチパネルにタッチして必要情報を入力し計測をスタートします。この空中立体映像技術を利用したタッチパネルは、センサーが指の位置を識別することで、直接画面に触れなくても浮かびあがった映像にタッチすることで操作ができます。その後、音声や画像の誘導に従い、3D計測器で自身の足形を測定します。
計測終了後は試し履き。測定した足形などを基に、壁に陳列された商品の中からおすすめの一足がライトアップされます。試着スペースに設置されたタブレットからカメラ越しに接客を受けることも可能です。
カートを押しながら自分で商品を登録する、レジに並ばないスーパー

カートに入れた商品の情報を読み込みながらショッピングをする仕組みは、既に全国35ヵ所のイオンを始め、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスが展開するマルエツ、トライアルホールディングスが展開するトライアルなどの店舗で採用が進められています。
一般的なセルフレジでは、会計時にすべての商品情報を読み込ませなくてはなりません。一方、こちらの仕組みは、貸し出される会計用端末や専用アプリをインストールした自身のスマートフォンを使い、商品をカートに入れるタイミングで随時読み込んでいきます。そのため、レジの待ち時間解消が期待できる他、各端末の画面から購入商品や合計金額を都度確認できるため、買い忘れがないかや予算を確認しながらショッピングができます。
さらに、利用者のスマートフォンに登録したアプリを利用する場合は、専用ゲートにスマートフォンをかざすだけで会計完了を確認できるシステムの導入も進められているそう。
また、総務省が公表している5Gの活用計画の中には、IoT技術を活用したショッピングの未来も描かれています。それによると、利用者は、自分の後についてくる自動追尾型のショッピングカートに商品を入れてゲートを通るだけ。自動的に会計され、口座から代金が引き落とされます。
アバターを使ったリモート接客
対面ではなく、アバターを活用して接客を行う例もあります。店内に設置されたディスプレイに表示されたアバターと別店舗や本社などに勤務しているスタッフがつながり、接客を受けることができるのです。
リモートで行うアバター接客は、店舗所在地に制限されることなく、専門知識や技術を持ったスタッフの接客を受けられるという利点があります。また、アバターの方が気軽に接客を受けられるという利用客の意見もあるようです。
この試みが導入された空港や駅の案内もあり、利用者が親近感を持てるよう、操作するスタッフの表情をアバターに反映させる機能や、うなずく、手を振るといった簡単な動作を行える機能が取り入れられています。
ネットショッピングでも実店舗同様の体験が可能に!

試着や採寸など、従来はリアル店舗に行かなくては難しかったことが、ネットショッピングでもできるようになってきています。
例えば、化粧品。化粧品は、実際と画面越しとでは若干色の違いが生じます。また、どのような発色になるのかは自分の肌で試してみないと分からず、これまでネットショッピングでの購入を避けていた方もいるかもしれません。そのような不安を解消するため、ある国内のECサイトでは、肌の色を計測してくれるメガネの提供を始めました。メガネを着けた顔の写真を専用アプリで撮ると、自動で肌の色味を診断し、それに合ったおすすめの化粧品をピックアップしてくれるのです。
また、スマートフォンでシャツを着た正面と横からの写真を撮影して、必要情報とともにECサイトへ送るだけで、オーダーシャツが注文できるサービスも存在します。採寸方法はたった2枚の写真。撮影時は首や手首が見える服を着用する必要があるとのこと。家にいながら自分にぴったりのシャツを作ることができるのです。
非接触型ショッピングが創る未来
ショッピングの効率化だけを求めるのであれば、ネットショッピングが最適かもしれません。しかし、「現物を見て選ぶ」「試着する」「スタッフのアドバイスを求める」といった体験は実店舗ならではのもの。そこにショッピングの楽しみを感じる人も多いでしょう。
そのような実店舗の良さを取り入れながら、利用者の利便性や事業者の生産性を向上させ、感染症対策としての価値も持つ。非接触型ショッピングの普及で、未来のショッピングはより楽しいものに変わっていくかもしれません。
参考:
・経済産業省「キャッシュレス・消費者還元事業 (ポイント還元事業) 概要」(外部サイト)
・電通 「コロナ禍での生活者のキャッシュレス意識に関する調査」(外部サイト)
・マネーフォワード「コロナ禍の個人の家計実態調査」(外部サイト)
・第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望 総務省(外部サイト)
ライタープロフィール

主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。立教大学卒業後、SE系会社を経て2019年に入社。主にクレジットカードやテック関連のWEBコンテンツ制作や企画立案、紙媒体の編集業務に携わる。
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