新・組織論vol.2「ウェルビーイング」な組織作りに必要なリーダーシップとは

新・組織論vol.2「ウェルビーイング」な組織作りに必要なリーダーシップとは

新・組織論vol.2「ウェルビーイング」な組織作りに必要なリーダーシップとは

心身ともに良好な状態であること示す概念で、組織のパフォーマンスをあげる要素としても注目されている「ウェルビーイング」。今回は「ウェルビーイング」を尊重した組織に必要なリーダーシップについて、専門家にその考え方と実践手法を聞きます。

これからのリーダーに求められるリーダーシップとは

――今回は、経営者やマネージャー層に、組織のメンバーを育ていかすためのメソッド(コーチング)を教えているコーチェットの立山さん、馬締さんにお話を伺います。個人の「ウェルビーイング」を尊重した組織が重要視されている今、リーダーにはどのような考え方が必要だとお考えでしょうか。

立山:新・組織論vol.1でもお話ししたように、「ウェルビーイング」を尊重した組織のリーダーには、意見を押し付けるのではなく、メンバーそれぞれの主体性を引き出す力が求められています。

――人をいかす組織を作るためにリーダーに必要なこととは何でしょうか?

立山:人をいかす組織を作るために重要なポイントとして、大きくは三点あると考えています。一つ目は「リーダーが全体性を開示することによりメンバーと信頼関係を築くこと」、二つ目は「メンバーの意見の『違い』の奥にある共感ポイントを探れるようになること」、そして最後に、「より大きな括りの組織に視点を持つこと」です。

リーダーが全体性を開示することでチーム内の信頼関係を築く

――まず一つ目は、「信頼関係を築く」。組織内の信頼関係はどのように築いていくと良いのでしょうか?

立山:初めてリーダーになるときは、誰しも自信が持てないですよね。私もまさに、そうでした。前職では、マーケティング部の部長としてメンバーを率いていましたが、その時の私は、不安や恐れから、皆に「がんばるよね、がんばれるよね!?」と、有無をいわさない働き方を強いていたと思います。それでは一方的なコミュニケーションとなり、信頼関係を築くことはできません。

そもそも人には360度、いろんな顔がありますよね。優しいときも怒りっぽいときも、頑固なときも優柔不断なときもある。仕事のうえでは皆、無意識に「仕事をする私はこうあるべき」という一部を見せて、残りの自分は家に置いてきていて、自分の全部の顔を出しているわけではないですよね。

でも私はコーチングを学ぶ中で「自分の中に全部の顔があることを、出しても良いんだ」と感じ、ダメなところも包み隠さず見せるように意識してみたんです。そうしたら、現場の皆がサポートしてくれるようになり、距離が縮まることで、私も一方的なコミュニケーションではなく、一人ひとりと向き合えるようになりました。

つまり、メンバーと双方向の関係性を築くためには、リーダーが全部の顔という「全体性」を開示することが重要なのではないでしょうか。

リーダーが全体性を開示することでチーム内の信頼関係を築く

――なかなか立場上メンバーに弱みを見せられないと考える方も多いと思われますが、リーダーが弱みをさらけ出しても良いのですね。

馬締:リーダーから全体性を開示するのは非常に有効です。また、逆にメンバーからリーダーへとフィードバックを求めるようにすることも重要です。そこから信頼が生まれ、相談しやすい関係が築かれ、一人ひとりのウェルビーイングを意識して一人ひとりをいかせるようになります。

立山:全体性をさらけ出すのは、一見、弱くてもろいリーダーシップに見えるかもしれませんが、皆が全体性を存分に発揮して、足りないところは補い合えば良いんです。私が自分の全体性を組織に持ち込んだら、周りもそうなって、皆が心理的安全性を得られてクリエイティビティーを発揮し、自分たちならではのアイデアを打ち出せるようになりました。また私自身、ダメなところも含めて許容してもらえるんだという安心感が持てて、私の心理的安全性も育まれていきました。

メンバーの意見の「違い」の奥にある共感ポイントを探る

――次にメンバー同士の共感を作るという点。そのために重要な考え方とは何でしょうか。

立山:「あなたのニーズ/価値観と、私のニーズ/価値観は、等しく同じ価値があって大切である」という考え方を持つことがまず大切です。あなたにとって大切なニーズがあるように、私にとってもニーズがあって、それはどっちが良い、悪いじゃない。両方を満たすには何ができるんだろうとリーダー側から歩み寄っていけば、メンバー側も変わっていくはずです。

――例えば、「正直ラクして稼ぎたい」「ワークライフバランスを重視したい」といった個人の欲望とチームづくりが相反することはないんでしょうか?

メンバーの意見の「違い」の奥にある共感ポイントを探る

立山:まずは「相反するのは真実なのかな?」と問いかけてみましょう。私たち人間は一時的な情報でジャッジするクセがあるので、表面的な言葉だけを捉えると相反すると思ってしまうかもしれませんが、そういう時はまず、「ラクして稼ぎたい」という言葉の根幹にはどんな願いやニーズがあるのかな、と考えましょう。何をラクだと感じるかも、人によって違いますし。

どんな人生を歩みたいと思っていて、どんな価値観に基づいてそういう表現になっているのか。信頼関係ができていたら、対話しながら価値観をしっかり掘り下げることで、その人の希望とマネジメントとしての期待が合致する地点を見つけることができます。

より大きな括りの組織に視点を持つ

――小さな組織を率いる場合、より大きな括りの組織とひずみが起きたり、機能不全に陥ったりすることも多々あるのではと感じますが、その辺りに関してはいかがでしょうか?

馬締:例えば、会社で考えたときに中間層であるマネージャー層の方がトップの信念を変えようとすることは非常に難儀です。そういう状況に悩むマネージャー層の方には「主流を変えようとするのではなく、まずは支流をつくりましょう」とアドバイスをしています。

例えば、規模の大きい組織でトップがコーチング的な考えや従業員のウェルビーイングを高める価値観を持っていないとします。その組織のマネージャーがトップと逆の価値観を持っているとしたら、トップの価値観を変えようとするのではなく、まず周囲にご自身と同じ価値観を持っている人はいないか探しましょう。そして小さなことで良いので、価値観を共有できる仲間たちと何かしらアクションを起こせないかを考えることが重要です。

トップの価値観に真っ向から反抗するのではなく、例えば、自分たちの部署だけでメンバーに対するコーチングを取り入れてみて、どんな成果がでるか検証してみることも一つ。そのような活動を通じて、小さな成果が見えてくると周囲が巻き込まれやすくなっていきます。そして、巻き込まれる人が増えていくほど支流が太くなり、場合によってはそれが主流になっていくこともあります。

――実際にウェルビーイングを尊重した組織は強くなっていくのでしょうか?

馬締:ここ20年ほど、組織においてウェルビーイングが注目されているのは、ウェルビーイングの高い従業員ほど生産性が高く、革新的で、クライアントに対して共感的であることを示す研究が増加しているからだと考えています。

その因果関係は「メンバーのウェルビーイングを高めることで、業績があがる」ではなく「メンバー一人ひとりをいかしてチームが育つ、その結果、メンバーのウェルビーイングも高まるし、業績もあがる」という構造だと捉えています。

立山:過去にコーチングをさせていただいた経営者の方が、自らのウェルビーイングに焦点を当てたコーチングを経験したことで、がらっと変わったことがありまして。コーチとして近くで目の当たりにして驚きました。

以前は「こういう会社が正解だ、業績が伸びる」と定義して、評価や人事制度にもその考えが強く反映されていましたが、「自分を含めたメンバーが幸せに楽しんで生きているのか」が、その企業の大切な指針になったのです。

すると組織全体に個人の生き方を大事にする考えが根付いて、企業のカルチャーが変わり、従業員満足度や、「働きがいのある会社」といった第三者指標もあがっていきました。

――リーダーが「一人ひとりを見よう、いかそう」と考えて関わっていけると、チーム、ひいては組織全体が育っていくのですね。それは、リーダー自身の人生にとってもプラスになりそうです。

立山:本当に、そう思います。私も経験から実感していますが、リーダーシップを執れる喜びって、大きいです。仲間と目的(ゴール)を共有して、自分一人だけでは行けない場所(目標)まで行けること。5人10人の個性がのびのびと発想を広げられると、世界に唯一無二のインパクトをもたらすことだってできます。

より大きな括りの組織に視点を持つ

それはすばらしい体験だから、もしリーダーのポジションを打診されて迷っている方がいたら、ぜひ挑戦してほしいです。全部自分でやろうとせずに、周りを頼ったって良いし、私たちコーチェットのような外部リソースにも頼って欲しい。「一人で悩まないで。私たちはあなたを支える準備ができています」とお伝えしたいです。

馬締:ウェルビーイングを前提としたコーチングやチームづくりは、あくまで相手が主体です。チームを率いて業績をあげなければと力んでいる若いリーダーには、主体を自分から相手に移す発想の転換をしてみてもらえると良いですね。メンバーもリーダーもウェルビーイングな状態は必ず実現できると思います。

この人に聞きました
立山早さん
立山早さん
CoachEd CCO/Coach
大学卒業後、広告代理店での営業経験を経て、 2013年に株式会社アカツキに入社。マーケティング部部長、新規事業開発を担当。経営者向けのエグゼクティブコーチとしても豊富な経験を持つ。2020年9月に株式会社コーチェット入社。CCO就任。マーケティングやサービス内の体験設計を含む、社内外のコミュニケーションの責任を担う。
馬締俊佑さん
馬締俊佑さん
CoachEd CHRO/Coach
北海道大学大学院 工学研究科卒業。卒業後、英国国立ウェールズ大学経営大学院MBA (日本語)プログラム事務局、人材開発系コンサルティング会社、JICAボランティア(ケニアでの社会起業家育成)を経て起業。事業と人・組織の成長支援に約15年従事。コーチェットの創業メンバーとしてサービス開発(インストラクショナルデザイン、研修設計)、採用、育成、組織開発を担当。
ライタープロフィール
高島 知子
高島 知子
編集者、ライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集者を経て、2010年よりフリーランス。マーケティング領域を中心に書籍やWebメディアで活動。最近興味があるのは「サービスドミナントロジック」「街づくりと顧客体験」「主婦の“自分のための消費”の背中を押す訴求」「将来モラハラをしない男児の育て方」「メダカの飼い方」です。
高島 知子 紹介ページ(外部サイト)

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