移動手段の統合が進むと、未来の生活はどうなるのか?

移動手段の統合が進むと、未来の生活はどうなるのか?

移動手段の統合が進むと、未来の生活はどうなるのか?

電車やバスなどの様々な交通手段と、その手配から決済までをITによってシームレスにつなぐ移動の概念であるMaaS(マース)。多くの業界を巻き込む新たなサービスとして注目されています。未来の生活が垣間見える国内外の事例とともに紹介します。

様々な交通手段の検索や、手配から決済が一つのアプリで完結

様々な交通手段の検索や、手配から決済が一つのアプリで完結

MaaSとは、「Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の略です。電車やバスなどの公共交通やタクシー、さらに、自転車や自動車などのシェアリングサービスへの接続までも含め、地域を限定せずに人の移動を包括的に網羅。ITによって、手段選択や乗り換え案内、手配から決済までも一連のサービスとして提供する新たな移動の概念です。

2021年現在、日本においては首都圏や一部地域に範囲を限定した、タクシーの手配から決済を実行できるアプリはありますが、これはMaaSの一端にすぎません。MaaSでは、例えば、目的地までのルート検索と検索結果に準じた公共交通機関の手配から決済、目的地での行動に応じた自転車シェアリングサービスなどの手配から決済まで、そのすべてが一つのアプリ内でシームレスに完結できるようになります。

MaaSはフィンランドが発祥

そんなMaaSの構想は、2006年にフィンランドの道路建設・整備会社に所属していたサンポ・ヒエタネン氏によって生み出されました。2015年、ヒエタネン氏は「MaaSフィンランド(現・MaaSグローバル社)」を立ちあげ、2016年には世界初のMaaSアプリ「Whim(ウィム)」を開発。首都ヘルシンキで提供を開始しました。

「Whim」は、利用者が自分に適したプランを選び利用料を支払うサブスクリプション方式で運用されています。例えば、「59.7ユーロ(30日間)」のプランでは公共交通乗り放題・自転車シェアの使い放題・タクシーの割引が受けられます。また「249ユーロ(30日間)」では、前述のプランに加え、週末に限ってレンタカーが使い放題のサービスが含まれます。

2018年に発表したアプリの利用統計データによると、ヘルシンキの公共交通機関の利用率は、アプリ提供前と比べて48パーセントから74パーセントへ跳ねあがっています。その背景には、マイカー所有率が高く渋滞や駐車場不足の問題を抱えていたヘルシンキの事情があります。また、欧州各国でみられる、交通渋滞や車の排気ガスによる環境負荷を抑える観点から、公共交通機関の利用を推進する意識もあるようです。

日本国内での取り組み事例

日本国内での取り組み事例

日本では、政府が「未来投資戦略2018」にて、MaaSの国内実現を重要施策として位置付けました。これを受け、経済産業省と国土交通省はMaaSの実現をめざすプロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」を開始。まずは北海道から沖縄までの全国28都市を対象に、オンデマンドバスやカーシェアの取り組み、地域におけるMaaSアプリの実証実験などに助成金の支援を行っています。

例えば、愛知県春日井市では、一人で病院へ行くことが困難な高齢者の利用を想定した相乗りタクシーの実証実験が行われ、静岡県浜松市では、移動だけに留まらないMaaS活用として看護師が患者の自宅へ移動診療車で訪問し、車両に搭載されたテレビ会議システムを通じて医師の診療が受けられる「移動診察車」の実証実験が行われました。

MaaSは民間企業でも取り組みが進んでいる

MaaSの取り組みを推進しているのは国や自治体だけではありません。IT業界、金融業界、通信業界などから多くの民間企業がMaaSへの事業参入を既に始めています。

日本では2018年10月に、大手自動車メーカーと通信キャリアがMaaSの提供を想定した事業を立ちあげて話題となりました。都市部の渋滞や免許を返納した高齢者の移動など、移動に関わる問題解決を目的としたこの事業。事前に予約して運行するオンデマンドバスと路線バスを融合した、コミュニティバスの導入などを行っています。

また同年には、大手自動車メーカーが出資する企業によって、事前予約制の乗り合いタクシーに走行データなどを取得できる通信機器が設置されました。そこで集めたデータは、自動車のシェアリングサービスの拠点研究に活用されているそうです。

さらに2020年1月には、鉄道会社が主導して開発した、タクシーと自転車シェアリングサービスの手配から決済までが可能になるMaaSアプリが提供されました。主に東京都内での利用が想定されています。

MaaSは日常だけでなく観光のあり方も変える

MaaSは日常だけでなく観光のあり方も変える

MaaSのめざす先には、「持続可能な地域公共交通」の実現もあげられます。持続可能な地域公共交通とは、利用者が増えることで公共共通事業者の利益となり、その利益を、MaaSなどのサービスや設備の投資に回し、さらなる利用者の利便性と利用者増につなげる—— つまり、移動体験全体の質を向上させる好循環のことです。

具体的には、既存の交通手段を組み合わせることで、利用者はマイカーがなくても移動しやすくなります。公共交通機関の乗り換えに手間取らないだけでなく、目的地周辺に着いたらタクシーや自転車シェアリングサービスなども活用できるため、移動の幅を広げやすくなるでしょう。

さらに、AIを搭載したMaaSアプリが実用化されれば、一人ひとりに合わせた最適なルートや移動手段を選択できます。例えば、高齢者やケガで自力移動が難しい方に合わせた移動手段などが提案されることになるわけです。

観光業界への経済効果も期待できる

MaaSによって移動のハードルが下がれば、観光業界へも経済効果が及ぶと想定されています。

観光地へと足を運ぶ人が増えるだけでなく、MaaSアプリと地域イベントやグルメ情報などを連携させることで、新たな消費につながる可能性があります。さらに、様々な移動手段がシームレスに網羅されることによって、公共交通では行きにくかったスポットへの送客も期待できます。私たちは、これまでリーチできなかった体験を得ることができるかもしれません。

最先端技術が「人生100年時代」を豊かにする

最先端技術が「人生100年時代」を豊かにする

ヘルシンキ市内の公共交通がMaaSアプリで飛躍的に利用率があがったように、MaaSによる移動体験は少しずつ広がりを見せています。

日本の歩みはこれまで、他国と比べて遅れていました。しかし、前述した2018年の「未来投資戦略2018」をはじめ、その動きは活発化しています。実験で得たデータを基に、さらに日本の社会環境に適したMaaSへと変化しているのです。

また、MaaSはITを前提にしていますが、利用者の対象はITに抵抗の少ない若年層だけではありません。今後は、高齢者に向けたサービス拡充や購買行動へのリンクなど、人生100年時代に向けた生活環境の向上をめざし、交通業界や通信業界に限らず観光業界や小売業界、医療業界といった多くの分野も巻き込んだ包括的なサービスへと成長していくでしょう。

今は予想もできないような業種やサービスがMaaSへ参入して、大きな発展を遂げる可能性もあります。交通手段による制限から開放され、これまで想像しなかった業態やサービスが日常に浸透する。そんな未来も、そう遠くはないのかもしれませんね。


参考:
『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)楠田 悦子、森口 将之著
『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(日経BP)日高 洋祐、牧村 和彦、井上 岳一 、井上 佳三著
『Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命 ―移動と都市の未来―』(日経BP)日高 洋祐、牧村 和彦、井上 岳一 、井上 佳三著

ライタープロフィール
八坂 都子
八坂 都子
育児系雑誌の編集アシスタント、美術系出版社にて編集記者を経て2020年にペロンパワークス・プロダクション入社。マネー系を中心にカルチャーなど幅広いテーマで記事執筆・コンテンツ制作を行う。

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