シリコンバレーで注目される「STEAM人材」。AI時代に必要な教育とは?

シリコンバレーで注目される「STEAM人材」。AI時代に必要な教育とは?

シリコンバレーで注目される「STEAM人材」。AI時代に必要な教育とは?

日本政府が「学ぶ機会の創出」をめざしているSTEAM教育(スティーム教育)。もともとは米国で提唱された考え方で、オバマ政権下で注目が高まりました。この記事では、STEAM人材が求められる背景を解説し、国内外の教育事例を紹介します。

そもそもSTEAM人材とは?

そもそもSTEAM人材とは?

2000年代、AIを始めとする科学技術の発展にともない、技術を学び活用できる人材の育成が必要と考えられました。そこで、米国・バージニア工科大学の大学院生だったジョーゼット・ヤックマンにより提唱され始めたのが「STEAM教育(スティーム教育)」です。

「STEAM」とは、Science(科学)、Technology(テクノロジー)、Engineering(工学)、Art(アート)、Mathematics(数学) の5つの頭文字をとった造語。

2008年、元米国大統領のバラク・オバマ氏が選挙公約として「STEAM教育支援」を掲げたことで注目されるようになります。その後、2013年にはSTEAM教育5ヵ年計画が発表され、教育機関への投資などに年間30億ドル(約3,300億円。 1ドル=110円で計算)もの予算が投じられる国家戦略へと発展しました。

もともとは、理系分野の学習に重点が置かれていたため「STEM(ステム)」といわれていました。しかし、知識を得るだけでは現実社会の課題と向き合うのに十分とはいえません。課題解決のアイデアを生み出すためには、柔軟な思考力や表現力も重要です。そのため、クリエイティブな発想を養うアート(Art)学習が加えられ「STEAM」となりました。

そんなSTEAM教育を受けた人材のことを「STEAM人材」と呼びます。STEAM人材はテクノロジーだけではなく、芸術や音楽、文学、哲学といったリベラルアーツ(一般教養)への理解をあわせ持ち、多角的に社会の問題を解決できる人材だといえます。

とくに、AppleやFacebook、Googleなどのインターネット関連企業が集まるシリコンバレーでは、ユーザーのニーズを起点に価値を生み出す考え方が浸透しています。

Googleは日本でも、エンジニアやデザイナーなどの仕事に興味のある中高生を対象にSTEAM教育の先にあるキャリアや可能性を紹介した『STEAM Career Magazine』という冊子を発行。Googleなどの企業ではSTEAM教育への意識が高まっていると考えられます。

国内でも文部科学省がSTEAM教育を推進

国内でも文部科学省がSTEAM教育を推進

2018年6月に文部科学省のSociety 5.0(※)に向けた人材育成に係る大臣懇談会が発表した資料「Society 5.0 に向けた人材育成 ~ 社会が変わる、学びが変わる ~(外部サイト)」によると、AIやIoTが高度化するこれからの時代には、次のような能力が求められると明示しています。

(※)人工知能(AI)、ビッグデータ、Internet of Things(IoT)、ロボティクス等の先端技術が高度化し、あらゆる産業や社会生活に取り入れられたことにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもの

・文章や情報を正確に読み解き、対話する力
・科学的に思考・吟味し活用する力
・価値を見つけ生み出す感性と力、好奇心・探求力

「対話する力」はコミュニケーションを図るうえで重要となりますし、SNSなどで簡単に情報が手に入る時代だからこそ「科学的な思考力」も求められます。「好奇心・探究力」は、社会の課題を発見し解決するために役立つ能力です。

上記の能力を身につけてもらうため、2020年の「新学習指導要領(外部サイト)」には、プログラミング教育や外国語学習、伝統や文化に関する教育など、多分野の教育が盛り込まれました。

中でも、テクノロジーの仕組みを知り論理的思考力を培うことのできるプログラミング教育は、既に小学校で必修化されています。

また、2021年に経済産業省は「STEAMライブラリー 未来の教室(外部サイト)」というウェブサイトを公開。SDGsを中心とした社会課題についての参考資料やワークシート、学習動画などが公開されており、学校の授業や個人学習に使えるデジタル教材となっています。生徒が一方的に情報を得るのではなく、自らの興味関心に合わせて探求できる仕組みです。

今後はワークショップや成果発表会など、アウトプットの場も提供していく予定だそうです。学ぶだけでなく実践、発信できるプラットフォームとしても期待が高まります。

STEAM人材を育てる方法とは?海外事例を紹介!

STEAM人材を育てる方法とは?海外事例を紹介!

世界的に注目の高まるSTEAM教育ですが、実際にどのような取り組みが行われているのでしょうか。海外の事例を見てみましょう。

【アメリカ】生徒主体で課題を解決する学校「High Tech High」

「High Tech High(ハイ・テック・ハイ)」は教員や地域団体からの支援で設立されたカリフォルニア州サンディエゴの公立学校です。

入学者の選抜方法は一般的な試験によるものではなく、なんと抽せん。そのため、学力や文化にかかわらず多様な生徒が集まっています。決まった教科書やカリキュラムがなく、生徒自らが興味に応じてプロジェクトを組み、課題探究を行っていることが最大の特徴です。

例えば「Urban Re-Farm(アーバン・リファーム)」というプロジェクトでは、都市部において食料生産や水再生を行うにはどのような設備が求められるかを考え、生徒自らが実際に植物プランターを作ったり、聞き取り調査をしたりして製品開発まで行いました。

さらに、製品の説明書や食料生産プロセスの問題点をまとめたものが出版物として販売されています。

知識を得るだけではなく、実体験や学校外とのコミュニケーションを経ることで、現実社会で新たな価値を生み出せる人材へと成長することができるというわけです。

【韓国】STEAM教育研究を行う「KOFAC」

韓国では2009年の教育課程改訂からSTEAM教育が取り入れられ、2020年の実施率は小学校30.8パーセント、中学校27.4パーセント、高校17.5パーセントに上ります。

韓国政府は「KOFAC(韓国科学創意財団)」というSTEAM教育研究団体に予算を投じ、団体が中心となってウェブサイトでの指導案の公開や教材開発への資金提供を行っています。

推奨されている学習分野は「自動運転・人工知能などの分野」「スマートフォンやドローンなどのテクノロジーを活用する分野」「音楽や芸術を中心とする分野」「ブロックチェーン(※)などの先端技術と仕事について考える分野」の4つです。

(※)複数の情報を塊(ブロック)にして暗号化し、チェーンのようにつなぎ合わせて管理するシステム。仮想通貨の取引データに使用されている

政府により学習分野の刷新が行われている韓国では、STEAM人材育成がより普遍的なものになっていく可能性がありますね。

【インド】3Dプリンターを使ってアイデアを具現化できる「ATL」

インドでは、2016年から各地の学校にAtal Tinkering Laboratory(ATL)という場所が作られています。ATLには3Dプリンターやロボット製作キット、ビデオ会議設備が備えられており、科学技術を学びながら子供たちの好奇心や創造性を引き出し、アイデアをアウトプットできる仕組みになっています。

国内で起業やイノベーションを増やす計画の一環として行われている取り組みで、既に5,000ヵ所以上に設置されています。

スタートアップ支援も盛んに行われているインドですが、次世代を担う子供たちの創造力や思考力が豊かになることで、ますます世界に影響を与える企業が生まれそうです。

日本国内でも進むSTEAM教育の取り組み

日本国内でも進むSTEAM教育の取り組み

世界と比べて、日本のSTEAM教育はまだまだ浸透しているとはいいがたいものの、既に取り組んでいる学校もあります。ここでは国内の事例を3つご紹介します。

【世田谷区立烏山小学校】信号機にプログラミングを施す

東京都の世田谷区立烏山小学校では、「ICT(情報通信技術)活用」「プログラミング教育」「ものづくり」の3つの視点からSTEAM教育に取り組んでいます。

2年生の生活科では、町の気になる場所を探し情報をまとめるという授業があります。ほかの小学校でも取り組まれている授業ですが、烏山小学校では「ICT活用」も目的としており、タブレット端末で着目点を書き込み、話し合いを行う際にもデジタルのワークシートを用いています。

4年生の学習では、地図を見て信号機が必要だと思う場所を選び、実際に歩行者信号機ロボットを設置して、信号の点灯時間をプログラミングしたそうです。

プログラミングの技術を学べることはもちろん、町の安全や危機管理について自分たちができることを知ることで、社会貢献を意識するきっかけにもなりますね。

【成城学園高等学校】自由な校風で生徒の社会問題解決を後押し

成城学園高等学校は生徒の自発的な行動を重んじる校風で、近年では電子機器を活用した情報教育にも力を入れています。すべての教室にWi-Fi環境が備えられ、タブレット端末は生徒全員に貸与。パソコン、プロジェクターなども用意されています。

タブレット端末の使用を積極的に推し進めることは、自ら情報を集め発信する生徒を育てるうえで有効だと一般的にも考えられています。

2020年に開催されたSDGsをテーマに動画を制作するコンテストで、成城学園の生徒2名が最優秀賞を受賞しました。「持続可能な水作り」として発表された動画では、汚れた水を飲んでいる人がいる世界の現状や、濾過器を身近な材料で作るための仕組みがまとめられています。

コンテストの情報を見つけてきたのも、参加の申込をしたのも生徒自身。学校として参加を勧めたものではありませんでした。

【聖徳学園中学・高等学校】座席も会話も自由な「STEAM棟」

聖徳学園中学・高等学校では、2017年には新校舎、通称「STEAM棟」を竣工。決まった座席はなく、道路側一面を窓にしたオープンな造りです。生徒たちは好きな席に座り、教師やクラスメートと話し合いながら、タブレット端末でプログラミングを学んでいます。

一方で、タブレット端末もパソコンも使わずに思考力やチームワークを養うワークショップも重視されています。電子機器は課題解決のツールの一つだという考えが聖徳学園のSTEAM教育の特徴です。

STEAM人材がこれからの時代を作っていく?

STEAM人材がこれからの時代を作っていく?

テクノロジーは急激に進歩しており、私たちの生活はますます便利になっていきます。一方で、これまで人の手によって行われてきた仕事の大半が、AIのような科学技術に取って代わられる時代が来るともいわれています。

人間は精密作業の精度や情報処理能力ではAIにかないません。だからこそ、テクノロジーを扱えるだけではなく、テクノロジーを活用して新たなイノベーションを起こせる人材が求められているのです。

単純作業は機械に任せ、人間はより創造的な活動に時間を割く。そんな未来では、幅広い分野の学びを深め、思考力や創造力を身につけたSTEAM人材が中心となっていくのかもしれません。


参考:
STEAM JAPAN(外部サイト)
新学習指導要領の趣旨の実現とSTEAM教育について ー「総合的な探究の時間」と「理数探究」を中心にー(外部サイト)
アドビのコンテスト受賞校、成城学園高校の指導教諭に訊く、子どもたちの「やってみたい!」を支援する校外活動指導とは(外部サイト)
聖徳学園とSTEAM教育(外部サイト)
プログラミング・ものづくり・ICT活用 3つの視点でSTEAM教育<世田谷区立烏山小学校>(外部サイト)

ライタープロフィール
吉村 しおん
吉村 しおん
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。文系大学院修了後、企業ブランディング書籍の営業・編集を経て入社。各種メディア記事の編集・ライティングを担当。

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