「GDP」では表しきれない?国の豊かさの新たな指標とは?

「GDP」では表しきれない?国の豊かさの新たな指標とは?

「GDP」では表しきれない?国の豊かさの新たな指標とは?

ニュースや新聞で目にすることも多いGDP。国の経済力を評価する指標の一つですが、GDPだけでは本当の豊かさは計れないと、長年新たな指標の必要性を問われ続けています。この記事ではGDPの基本と問題点、指標の新候補について紹介します。

そもそもGDPって?

そもそもGDPって?

「GDP(国内総生産)」とは、その国内で一定期間内に生産された、モノ・サービスの付加価値の合計金額です。ここでいう付加価値とは、販売価格から原材料費を引いたものを指します。

それではGDPを、スーパーで販売されているパンを例に考えてみましょう。パンは原材料である小麦の費用に加え、「小麦農家」「パン職人」「流通業者」「スーパーの経営者」といったそれぞれの労働による付加価値を上乗せした価格で販売されています。付加価値分は、主に賃金として分配されることで、経済は循環しています。

付加価値分は、主に賃金として分配されることで、経済は循環しています。

このように、モノ・サービスに上乗せされた付加価値の合計から、その国の経済活動の大きさを測るのがGDPなのです。

GDPでは人々の豊かさや環境面を十分に評価できていない?

国の経済規模を測る指標として活用されてきたGDPですが、「GDPでは人々の豊かさや環境面を十分に評価できないのではないか」という指摘も存在します。

2007年11月に国際会議「Beyond GDP」が「GDPでは人々の豊かさや環境面を十分に評価できないのではないか」というテーマで開催されました。以来、社会の進歩や豊かさの新たな指標の構築をめざし、世界中で議論が行われ続けています。

「Beyond GDP」2020年版のレポートによると、世界11ヵ国(オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、ケニア、ロシア、英国、米国)で、平均約72パーセントの国民がGDPに代わる指標の必要性を感じているとのデータもあります。

GDPと心の豊かさが比例しない「幸福のパラドックス」

GDPと心の豊かさが比例しない「幸福のパラドックス」

では、なぜGDPに代わる指標が必要と考えられているのでしょうか?

その理由として、GDPは経済の豊かさを表していますが、その成長が必ずしも「心の豊かさ」に結びついていないのでは、という指摘があるからです。

経済活動で発生した付加価値を合算するだけのGDPには、以下のような問題点があるとされています。

・家事やインターネット上の無償サービスは算出されない
・技術の進歩による生産性や生活の質の向上を反映できない
・救命、復興活動などで生じた付加価値も合算される

無料の動画サイトや検索エンジンの利用で心が豊かになったとしても、それらはGDPに影響しません。最新機械の導入で仕事の生産性が上がり、早く帰れるようになったとしても、できた余暇でお金を使わなければGDPは上昇しません。

逆に、事故や災害の発生で医療の利用が増加すれば、ネガティブな要因だとしてもGDPは上昇してしまいます。

GDPのみを追求する方針の政治では、このように経済成長と国民の豊かさの間にギャップが生じる可能性があるのです。この矛盾は「幸福のパラドックス」と呼ばれています。

この矛盾を解消する新たな指標こそ、心の豊かさが満たされた社会の実現に必要だと考えられているのです。

国の豊かさにつながる新たな指標の候補

GDPに代わる指標は、前途した国際会議などの議論の場で数多くあがっています。今回は、その中から4つを紹介します。

・GPI(真の進歩指標)
・GNH(国民総幸福量)
・IDI(包括的発展指標)
・Better Life Index(より良い暮らし指標)

それぞれの指標を具体的に見ていきましょう。

1.隠れた豊かさを見定める「GPI(真の進歩指標)」

「GPI(真の進歩指標)」は前述したGDPが抱える問題点を解決するため、3つのアプローチからGDPを捉え直しています。

1.GDPに算出されない隠れた豊かさを組み入れる
2.豊かさを高めない消費を差し引く
3.豊かさを奪う活動・要素も考慮する

例えば家事や育児、教会やボランティア組織の活動は、基本的には金銭のやりとりが発生しないのでGDPに反映されません。

しかし、これらの活動は確実に家庭や社会の豊かさに貢献しているはずとして、GPIではこれらの価値が数値化され組み入れられています。

一方、交通事故による支出といったネガティブな消費や環境汚染は、豊かさの損失として差し引かれます。

既存のGDPに上記のような考えを組み合わせ、国民の豊かさをより正確に把握しようとする指標が、GPIなのです。

2.国民総幸福の国「ブータン」発祥の「GNH(国民総幸福量)」

2.国民総幸福の国「ブータン」発祥の「GNH(国民総幸福量)」

「GNH(国民総幸福量)」は南アジアの国、ブータンで実際に政策の基本方針として取り入れられている指標です。

GNHでは、国民の幸福には次の4つが欠かせないと考えられています。

・持続可能で公平な社会経済開発
・伝統文化の振興
・環境保護
・良き統治

この4つの観点を軸に、「学校教育は行き届いているか」「家族は互いに助け合っているか」「野生生物は保護されているか」「公共事業は適切に行われているか」など、全72項目で国民の幸福度を評価。

また、GNHの向上のため、「医療費・教育費の無料化」「公的な場所での民族衣装の着用義務化」「国土の60パーセントの森林面積を維持」といった政策が実施されています。

GNHの根底にあるのは、経済と心の発展が共存し、互いに補強し合ったときにこそ人間社会の発展が起こるという考え。経済のみの成長を最終目的としないGNHのコンセプトは、提唱者であるブータンの第4代国王の言葉にも表れています。

「(物質的に)豊かであることが必ずしも幸せではないが、幸せであると段々豊かだと感じるようになる」

なお、幸福度については、こちらの記事でも解説しています。
幸せってどんなカタチ?日本独自の幸せ指標

3.生活水準や持続可能性にも焦点をあてる「IDI(包括的発展指標)」

「IDI(包括的発展指標)」は次の3つの観点をベースに、様々な指数を利用し、不平等への対策や持続可能性を評価する指標です。

・成長と発展性
・幅広い層の生活水準
・世代間の共生と持続可能性

まず成長と発展性は「一人あたりのGDP」「労働・生産性」「健康平均余命」から評価。

幅広い層の生活水準は「格差所得や富の格差」「貧困率」から判断します。

そして世代間の共生と持続可能性は「天然資源や財源の枯渇度合い」「人的資本への投資」などから、持続的な成長が実現できているかどうか測ります。

4.個人が自分の暮らしを自由に評価・比較できる「Better Life Index(より良い暮らし指標)」

最後の「Better Life Index(より良い暮らし指標)」はOECD(経済協力開発機構)が提供する指標です。特徴は個人が自分の暮らしを自由に評価、比較できるという点にあります。

そもそも、OECDとは世界中の人々の経済的・社会的福祉を向上させる政策の推進をめざす機関。世界中の貿易や投資の流れを分析することで今後の傾向を予測したり、個人の納税額や余暇の調査から教育、年金制度について各国を比較したりしています。

OECDのウェブサイトでは住宅や収入、雇用といった「物質的な生活条件」と、教育や医療の質、環境といった「生活の質」についての11の設問を用意。

ユーザーは「快適に暮らせているか」「ワークライフバランスは適切か」といった質問に対し、それぞれの満足度を入力することで、自身の生活の豊かさを数値で確認できるようになっています。

Better Life Indexは個人が自分の暮らしの現状を把握し、議論に積極的な参加を促す目的で作成されました。そのため各国のランキングなどは存在せず、あくまで「幸福とは何か」を国民が考えるきっかけ作りのツール、という立ち位置になっています。

参考:
OECD「より良い暮らし指標(Your Better Life Index)」クイックガイドPDF(外部サイト)

まとめ

今回紹介した指標は、どれも複数の観点から、数字には表れにくい人々の生活の質や豊かさの測定を試みています。大切なのは単純な数値の大小の比較ではなく、最後に取り上げたBetter Life Indexのように「どうすれば豊かになるのか」を考え、一つひとつ解決していくこと。

一つの視点に捕らわれない幸せの考え方が、多様性に富んだ明るい未来を作っていくのではないでしょうか?


参考:
内閣府 国民経済計算(GDP統計)(外部サイト)
外務省 経済局国際経済課 主要経済指標(外部サイト)
総務省 平成28年版 情報通信白書「GDPに代わる豊かさの指標への取組例」(外部サイト)
サステナブル・ブランド ジャパン『豊かさの再定義を求める声 GDPには健康や社会、環境データの追加が必要』(外部サイト)
外務省 ブータン~国民総幸福量(GNH)を尊重する国(外部サイト)
Maryland メリーランド州の真の進歩指標(外部サイト)
OECD 経済協力開発機構(OECD)について(外部サイト)
OECD OECD「より良い暮らし指標」よくある質問(日本語仮訳)(外部サイト)
幸せ経済社会研究所 包括的発展ランキング――日本は30カ国中24位(外部サイト)

ライタープロフィール
笠木 渉太
笠木 渉太
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。立教大学卒業後、SE系会社を経て2019年に入社。主にクレジットカードやテック関連のWEBコンテンツ制作や企画立案、紙媒体の編集業務に携わる。

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