宇宙旅行が身近になる夢のエレベーターって?
宇宙エレベーターとは地上から宇宙へケーブルを伸ばし、カゴのような乗り物で人や荷物を宇宙へと運ぶ建造物です。
これまでも多くのSF作品でその存在が描かれ、様々なアイデアが描かれてきました。しかし、地表から遠く離れた宇宙にケーブルを伸ばす技術やそれに耐える素材がないといった課題から、実現は不可能と考えられてきました。
しかし、軽量で強度の高い「カーボンナノチューブ」という物質の発見を機に研究が大きく前進。さらには日本の建設会社「大林組」が2012年「宇宙エレベーター建設構想」を発表。構想発表時は、克服しなければならない問題が全て解決し、アースポートの着工ができれば、25年間の建設工期で完成できるとされていました。しかし、「カーボンナノチューブ製のケーブル」などのいくつかの技術的な問題が解決しておらず、2050年完成は難しい状況です。
宇宙エレベーターが完成するとどんな良いことがある?

大林組の構想では宇宙エレベーターは全長9万6,000キロメートルと、地球2周分以上の長さがある巨大な建設物になるそうです。また、地球側と宇宙側それぞれの端やその間にステーションがあり、そこが居住空間や研究施設になります。
完成はまだ先とのことですが、様々なメリットがあると考えられています。具体的には何ができるようになるのか、いくつか未来予想図を見ていきましょう。
宇宙までの輸送コストは100分の1に?
宇宙エレベーターのいちばんのメリットは輸送コストの削減です。
現在、人類が宇宙へ行く方法はロケットに限られています。ロケットを1回打ち上げるのにかかる費用は数十億円から100億円程度とも。さらに困ったことにロケットは基本的に使い捨てであり、再利用といった方法でコストを抑えることが困難です。また、積荷の大部分を燃料が占めているため、一度に運搬できる物資や人員の量も限られています。
一方、宇宙エレベーターの輸送コストはロケットの100分の1になると考えられています。ロケットと違い輸送用の箱は繰り返し使えるからです。
また、ケーブルやレーザーやマイクロ波を使って無線で供給される電力で動くため燃料を積む必要はなく、一度に多くの荷物を運べる点も経済的。宇宙エレベーター協会の試算では、将来的に1キログラムあたりの輸送コストは数千円から1万円になるといわれています。人の体重を60キログラム前後と仮定すれば、1〜2週間分の食料や衣服を持って行ったとしても、100万円の予算があれば宇宙に行くことが可能です。
週末宇宙旅行が実現?
宇宙ならではのアクティビティやそれを目的とした観光業も発展すると考えられています。気軽に宇宙に行けるようになった未来では、休みの日に宇宙から地球を眺めたり、無重力空間で遊んだりするようになるでしょう。
単純に体を宙に浮かばせるだけでも楽しそうですが、SF作品では大量の水をまとめた球体のプールや、無重力空間での飛行コンテストといったアクティビティも描かれています。もしかしたらそのような娯楽も現実に生まれるのかもしれません。
より遠くの星も探索できるように

宇宙エレベーターはロケットや輸送船の発着基地としての役割も想定されています。
先ほども紹介した通り、ロケットの積荷は地球の重力圏から脱出するための燃料がほとんどです。搭載した燃料の大半は、宇宙に行くまでに使用してしまいます。それほど、地球から宇宙に出るには大量のエネルギーが必要なのです。
もしロケットを無重力空間にある宇宙エレベーターの発射基地から打ち上げたとすると、地球からのロケット打ち上げで使うような燃料は必要ありません。なぜなら、宇宙エレベーターからの打ち上げでは、輸送船を高いところまで持ち上げて、回転するスピードを利用して放り投げることで、月や惑星に飛ばすことができるからです。
地球からの打ち上げに必要な燃料を搭載する必要がない分、空いたスペースに物資を詰め込むことができればより長距離、長期間の宇宙探索が可能となるはずです。未だ見ぬ惑星の発見にもつながるでしょう。
月との往復も従来よりもずっと低コストになるので、月面基地の建設も進むだろうと考えられています。人が地球以外の惑星で暮らすようになるのも、そう遠くはないのかもしれません。
エネルギー問題の解決も期待される
宇宙空間にメガソーラーパネルを設置する「宇宙太陽光発電」というアイデアもあります。太陽光エネルギーをマイクロ波またはレーザー光に変換して地球に伝送し、電力として利用するシステムです。
地表では天候や時間に左右される太陽光発電ですが、宇宙ならば遮るものがなく、さらに地上の約1.4倍の強度の太陽光を利用可能です。
もし太陽光による安定したエネルギー供給が実現すれば、化石燃料の抱える環境への悪影響や枯渇の可能性といった問題が解決するのではないかと期待されています。
宇宙エレベーターの開発はどこまで進んでいる?
ここまで多くの未来予想図を紹介してきました。ここからは、宇宙エレベーターの研究が現在どこまで進んでいるのか、見ていきましょう。
宇宙エレベーターの素材は見つかっている

冒頭でも紹介した通り、1991年にカーボンナノチューブが発見され、宇宙エレベーターの建設は現実的なものになりました。カーボンナノチューブとは引っ張りに対する強度が鋼鉄の100倍あり、しかも密度がアルミニウムの半分程度と非常に軽い素材。強度、軽さともに宇宙エレベーターに最も適した素材であると考えられています。
しかし、実用のためにはさらに強度を上げる必要があります。現状は宇宙エレベーターの建設に必要な強度の3分の1程度まで実現、量産の目処も立っているようです。
建設場所は赤道の海
宇宙エレベーターの建設では、地上にもケーブルをつなぐ施設が必要です。その建設場所もある程度は決まっているそうです。
有力候補とされているのは赤道上の海とされています。いくつか理由はあるのですが、天候が穏やかであるのが大きなポイントです。また、陸上からの移動が容易な海上に建設することで、ケーブルの移動や張力の変化にも対応できるとされています。
もし実現すれば、私たちは陸上から海上に用意された施設へと向かい、そこから宇宙へ飛び立つこととなります。
乗り物部分は毎年技術を競う大会が行われている
さて、宇宙エレベーターは乗り物となる箱がカーボンナノチューブのケーブルを伝い、地上と宇宙を行き来する構造です。エレベーターというものの、イメージとしては垂直に伸びるモノレールと言った方が近いかもしれません。
この箱はクライマーと呼ばれており、その技術を競う大会が毎年日本で開催されています。実際の競技ではヘリウムガスで上空にバルーンを浮かべ、バルーンから吊り下げたロープを伝ってクライマーが昇降。クライマーの到達高度や運搬できる重量を競います。
今のところ人が乗れる大きさのクライマーは作られていませんが、2013年、クライマーはついに高度1,000メートルへ到達。また、100キログラムの積み荷を高度100メートルまで持ち上げることにも成功しています。現在はスピードや運搬能力などを追求し、各国の研究期間で日夜研究が行われているようです。
まとめ
私たちの生活が大きく変わるかもしれない、宇宙エレベーターの開発は既に始まっています。2050年はすぐそこ。今を生きる多くの人々が、宇宙エレベーターに乗れる可能性を持っています。宇宙が身近にある未来を想像してみましょう。
参考:
『宇宙エレベーターの本: 実現したら未来はこうなる』(アスペクト)宇宙エレベーター協会著
宇宙エレベーターとは 一般社団法人 宇宙エレベーター協会(外部サイト)
宇宙エレベーターとは 神奈川大学工学部 宇宙エレベーター プロジェクト(外部サイト)
宇宙エレベーター建設構想 大林組(外部サイト)
ライタープロフィール

主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。立教大学卒業後、SE系会社を経て2019年に入社。主にクレジットカードやテック関連のWEBコンテンツ制作や企画立案、紙媒体の編集業務に携わる。
笠木 渉太の記事一覧はこちら