トイレ専門家がめざす「トイレから地球革命」とは?

トイレ専門家がめざす「トイレから地球革命」とは?

トイレ専門家がめざす「トイレから地球革命」とは?

1日に何度も利用するトイレは、日々研究・開発が進んでいることをご存じでしょうか。今回は日本トイレ協会の役員でありトイレ研究家の白倉正子さんに、トイレが抱える社会課題や近年の進化について話を聞きました。

発展途上国では生死に関わることもあるトイレ問題

発展途上国では生死に関わることもあるトイレ問題

日本ではあたり前のようにトイレを使用できるため、あまりピンとこない方がいるかもしれませんが、トイレの有無はひとの生き死にに直結します。実際に一部の発展途上国では、し尿処理を行う下水設備やトイレなどの衛生設備がないため、排泄物の細菌などが原因で1日800人を超える子供たちが命を落としています。

トイレの研究や掃除グッズの開発を行う世界初のトイレ専門企画会社「アントイレプランナー」の代表を勤める白倉正子さんは、以前からこの事実に問題意識を抱き、「トイレから地球を変えていく」ために活動しています。

「発展途上国などへ支援を行う団体は、井戸を作るなど水回りの整備はするけど、トイレの整備は後回しにされる地域が多いそうです。下水道がないところでは、穴を掘って、そのなかに排泄物を埋めるだけ。でも雨期には洪水で、し尿が溢れ出る。埋めて、溢れ出してを繰り返しています」(白倉さん)

さらにトイレがない地域では、川や野原で糞尿をすると、そこにハエがつきます。糞尿の病原菌などがついたハエは、人間が食べる物にも止まる。それを口にすると下痢や病気を引き起こし、最悪の場合、死に至る可能性もあるわけです。

「大学生時代に授業で、デパートがトイレをきれいにしたら売上が上がったという話を聞いてトイレに興味を持ちました。それで卒論も『トイレビジネス』に関する情報を集めていくうちに、『世界のトイレってこんなレベルなの!?』と驚愕したんです。『トイレさえない国もあるなかで、自分にやれることは何かないだろうか?』と考えた結果、トイレ専門家になる決意をしました」

文化や慣習が違えばトイレの在り方も変わる

文化や慣習が違えばトイレの在り方も変わる

海外の深刻なトイレ問題を知ったことがきっかけとなり、白倉さんは「トイレから地球革命」というビジョンを掲げ、アントイレプランナーとしての活動を開始。また世界中に存在するトイレ協会の日本支部の役員としても活動するなかで、これまで数多くの海外のトイレ事情を視察してきたそうです。

そこでは、下水道の普及率や文化などの違いを背景に、日本とはまるで異なるトイレ事情に驚かされることが一度や二度ではなかったとか。

「温水洗浄便座を付けたくても、トイレブース内にコンセントがなかったり、紙でお尻を拭く文化がない国もあったり。『電気と水と紙を使ってお尻を拭くなんて、環境負荷が多すぎる』と言われたこともあり、トイレに対する認識に差があったんです。『日本のウォシュレットトイレはすごい!』なんて言われますが、文化が異なれば、日本の技術は贅沢だと言われることもあります」

だからこそまずは文化圏が近い、つまりはトイレに対する認識にそこまで差のない地域から衛生的なトイレを広めていく。そして、その地域がさらに近隣の国に広めていくといった方法が有効だと考えているそうです。

「日本のトイレの快適さを示す一つに、温水洗浄便座がありますが、それを例に話すと日本のウォシュレットは、水を温めるだけでなく、風を出して乾かすこともできる。トイレに関わる技術の高さは、世界でもずば抜けています。一方で、例えばタイではトイレに設置してあるホースでお尻を洗ったり、排泄物を流すのですが、元々水温が高いので温める必要はない。つまり、電気で温めるという温水洗浄便座の技術は不必要なんです。メーカーは日本のトイレのかたちをそのまま輸出するのではなく、必要とされている一部の技術だけ加工して提供しています。そうやって少しずつ、衛生的なトイレを広めていきたいと考えています」

日本の公衆トイレにはまだまだ課題もある

海外のトイレ事情の研究を続けるうちに、日本のトイレが抱える課題について気づくことも増えたそうです。

「例えば車椅子の方の利用を想定した屋外の公衆トイレ。トイレまでの導線が狭くて通りにくかったり、ドアが開けにくかったり、入り口に段差があって入りにくかったりという矛盾が指摘された時期もありました。またそれらの問題を解消した、障がいのある方が優先的に利用できるトイレを設置したところ、『差別に感じられる』という声が出ました。改善案として赤ちゃんを持つ親も使えるようにとベビーベッドを設置したら、今度は利用者が増えて渋滞するようになってしまったんです」

こうした問題を受けて、現在では利用状況に応じてトイレを選択できるように建物内のトイレに選択肢を増やすケースが奨励され始めました。

「『バリアフリーが徹底された1階のトイレは、車椅子の方向け』『ベビーベッドが設置された2階のトイレは、親子連れ向け』『音声案内が整備された3階のトイレは、視覚障がいのある方向け』と、商業施設などで、複数の機能を持つトイレの導入が進んでいます。各階の機能を説明した案内シールを掲示することで、自分に合ったトイレを選べるような工夫も施されているんです」

このように、問題提起から解決策が導き出されるなか、誰もがストレスを感じない配慮はこれからも研究が進むと考えられます。

「公共トイレは改装をするとしてもコストが大きくかかるため、最新設備に変えることは簡単ではありません。それでも社会のなかで、トイレに対する問題意識は年々高まっていると感じます。『トイレを快適に使いたい』という人が増えれば、公衆トイレに求められる期待値が上がり、利用者のニーズに応えるかたちで、社会全体のトイレの在り方は少しずつアップデートされていく。最新のトイレでは、既に設計段階からストレスを感じさせない工夫を模索しています」

快適にトイレを使用する工夫の事例を、少しみてみましょう。

快適にトイレを利用する工夫の事例

快適にトイレを利用する工夫の事例

トイレの命名権と管理義務をセットで提供する

快適な公衆トイレをめざす工夫の一つに、「ネーミングライツトイレ」という面白いシステムがあります。

「要するに、トイレに名前を付ける権利を販売する仕組みです。企業にとってはお金を払えば公衆トイレの名前に商品名や企業名を付けて良いので、宣伝効果があるんです。でもその代わり、公衆トイレの管理もしてね、というシステムです」

公衆トイレは管理の目が行き届きにくく、劣悪な環境になってしまうこともあります。監視カメラを設置することもなく、壊されたり、家庭用のゴミが廃棄されたりすることがあるそうです。

しかしネーミングライツトイレでは、行政が派遣した掃除業者もいますが、それにプラスして名前を付けた企業が管理する仕組み。渋谷区のある公衆トイレを掃除業者が落札した例では、トイレがきれいになっていく様子を動画にして発信。自社の知名度アップにつながり、ほかのトイレを管理する企業も触発され、トイレ清掃に力を入れるようになったといいます。

釣り人に人気の携帯用トイレ

運営方法だけでなく、使う側にとってもほんの少しの工夫でトイレ問題を解決する方法はあります。

例えば、地震などの災害時のための携帯トイレ。断水や停電によってトイレが使えなくなる時のための備えですが、緊急時以外でも需要が増えているそうです。

「釣りをする人にとって、釣り場には近くに公衆トイレがないことが多く困ることも多いそうなんです。そこで組み立て式の簡易トイレがあれば、ポンチョで自分の下半身を隠すなどして用を足すことができる。こうした携帯トイレの使い方一つとっても、普段何気なく使用しているトイレのありがたさに気づく良い機会だと思います」

もっと「安心」「衛生的」なトイレを実現するため、進化は続く

もっと「安心」「衛生的」なトイレを実現するため、進化は続く

最近では車椅子の方向けに、手すりではなく、面(テーブル)で身体を支えるトイレも出てきています。

「手すりの場合、腕の力だけで身体を支えなくてはいけません。しかしテーブルでしたら、もたれかかることができるため、上半身全体の力で身体を支えられる。腕をテーブルに置いたまま、安定した姿勢で排泄もできます。このように利用者に合わせたトイレは増えているんです」

さらに誰でも利用できる公共トイレでは、ウイルスなどの感染対策が講じられるケースも増えているそうです。

「例えば、除菌効果のある水を生成し、自動で散布する機能を持つトイレがあります。ほかにも水面全体を泡で覆い、尿の飛び跳ねを防ぐなど、トイレ回りを汚さないタイプも登場してきています」

安心して利用できて、なおかつ衛生的。そんなトイレの開発に向け、日々研究は進んでいるといいます。

快適な未来に向け、まずは自宅のトイレを綺麗にしてみよう!

快適な未来に向け、まずは自宅のトイレを綺麗にしてみよう!

トイレを清潔に使い続けるために、どのような意識を持ったらいいのでしょうか。

白倉さんは、トイレの汚れが頑固になる前に大掃除するのが良いといいます。

「そもそもトイレの汚れには『付着』と『固着』があります。比較的落としやすい『付着』の汚れは時間が経つと固まって『固着』汚れになってしまう。だから頑固な汚れになる前に、徹底的にトイレ掃除を行う日を決めておく。そうしたら次の掃除のときも『付着』を落とすだけで済むから、トイレをきれいに保てるわけです」

ちなみに白倉さん宅では、シールや飾り付けでトイレをデコレーションし、「デコ便」として楽しむ機会を設けているそうです。

「うちのトイレは世界一、変化が激しいトイレだと思います。季節や子供の誕生日ごとに、トイレをキャンパスに見立ててデコるんです。そうするとトイレ空間がかわいくなり、汚したくなくなる。あとは模様替えのときに1時間かけて、普段は手の届かないところも徹底的に掃除するんです」

すると、何ヵ月かに1回大掃除するだけで、トイレのきれいさは十分保てるといいます。

家庭でこのような大掃除の機会を設けることで、落としづらい汚れと落としやすい汚れの違いを学ぶことができますし、正しいトイレ掃除の仕方を子どもにも教えることができます。

まずは家庭のトイレを丁寧に扱う意識を育てていくことが、公共を含めた快適なトイレの未来へ向かう第一歩になるかもしれませんね。

参考:
『私の人生は「トイレ」から始まった!』(ポプラ社) 白倉 正子著

この人に聞いてみた
白倉 正子さん
アントイレプランナー代表
白倉 正子さん
「トイレから地球革命!」を掲げて、トイレグッズの開発からイベントのトイレ対策、トイレに関する講演など幅広く活躍するトイレ専門家。『私の人生は「トイレ」から始まった!』(ポプラ社)
ライタープロフィール
浅井 いずみ
浅井 いずみ
編集者・ライター。ペロンパワークス・プロダクション所属。漫画・アニメ・映画などポップからサブカルチャーまで幅広いエンタメ分野の記事執筆・コンテンツ制作に携わる。

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