鉄道が変えてきた人々の生活

産業革命とともに生まれた鉄道文化
鉄道が生まれたのは19世紀のイギリスで、18世紀から始まった産業革命時代に原点があります。産業革命によって、大量生産が可能になったことで、物資や製品を大量かつスムーズに輸送する必要が出てきました。そこで、鉄道(蒸気機関)の時代がやってきたのです。
1802年、イギリス人のリチャード・トレビシックにより発明された世界で最初の蒸気機関車は、1804年にウェールズで鉄鉱石と乗客の輸送に使われました。当初はレールが弱く、故障が多かったようです。
その後、ジョージ・スチーブンソンにより改良された蒸気機関車「ロコモーション号」は、1825年に乗客を乗せ、35台の貨物車を引いて約17キロメートルの区間を時速約18キロメートルで走行。これが、世界で初めて乗客を乗せた鉄道列車となりました。
続いて1829年に作られた「ロケット号」は時速40キロメートルを記録。1830年には、リバプール~マンチェスター間で運用されるようになりました。
それから40年間、イギリスでは鉄道の建設ラッシュが続き、一度に多くの人が、遠くへ行ける世界が実現しました。それまで旅行は非常に高価で、お金持ちの娯楽とされていましたが、鉄道の発明と普及により、一般の人でも楽しめる娯楽に変わっていったのです。
日本の鉄道の始まりと生活の変化
日本に鉄道技術が入ってきたのは、1853年(嘉永6年)の幕末。長崎に来航した船の上でロシアの蒸気機関車の鉄道模型を見た日本人が、その技術に感銘を受けたことが始まりです。その後、1872年(明治5年)には新橋~横浜間の約29キロメートルに日本初の鉄道が開通しました。
鉄道網は着々と広がり、1889年には、新橋~神戸間の東海道本線が開通。江戸時代、平均11泊12日かかっていた江戸から京都までの旅が、たった1日で行けるようになったのです。
日本の鉄道誕生は、イギリスに比べて47年、アメリカに比べて42年遅くはあるものの、政府の後押しなどもあり、電気を用いた鉄道は、欧米とほぼ同時期に導入されました。日露戦争後の明治末には、日本の電気事業の進歩を背景に鉄道も発展を遂げました。その結果、安価な旅客貨物の大量輸送や、遠方地からの労働者雇用などが実現。明治時代から大正、昭和にかけて鉄道は、日本の経済発展、技術革新への貢献と同時に、人々の生き方をも変える存在となったのです。
進化した鉄道の現在。生活になくてはならない存在に

現代では、新幹線や特急列車など目的に合わせて様々な列車のスタイルを楽しむことができます。
例えば、1964年の新幹線開通以前の特急「こだま」では、東京~大阪間の所要時間が6時間50分でしたが、2015年の新幹線「N700A」の最高速度引き上げにより所要時間2時間22分にまで短縮されました。こうした進化により、遠方からの出張や旅行が容易で安価になり、観光事業や商業施設、レジャー施設などが恩恵を受けてきたといえるでしょう。
速さだけはない鉄道の文化力
もちろん、速さだけが鉄道文化の進歩ではありません。経済発展とともに、地方と都心を結ぶ鉄道網は広がりを見せ、都心では、私鉄や地下鉄が網の目のように張り巡らされた結果、車を必要としない人も増えています。
これにより、都心から離れた閑静な住宅地に住みながら、都心で働くことが可能に。自身の生活スタイルに合わせて、勤務地と居住地を選択することができるようになりました。
全国に鉄道が広がりを見せていった明治末期と比べると、高速道路の整備、LCC(格安航空会社)など、移動手段は多様化しています。駅チカ、駅ナカであることは、店舗やイベント、住居などに付加価値を与え、いまでも魅力を押し上げる大きな要素といえるでしょう。
開発中のリニア鉄道と生活の未来予想図

リニア中央新幹線は、現在、様々な調整や開発が進んでいます。多くの課題はあるものの、鉄道の歴史においても大きな転換点となるはずです。リニア中央新幹線が開通したら、私たちの生活はどのように変化していくのでしょうか?
そもそもリニアってなに?
リニア中央新幹線は、磁石を用いて電気エネルギーを回転する力に変換し、モーターを回転。さらに、磁石の力で車両を10センチメートル浮かせながら、時速500キロメートルほどで走行する車両として計画されています。
これまでの高速鉄道は、レールに車輪が触れた状態でスピードを上げていたため、同時に車体などを制御する技術も必要でした。一方、リニア中央新幹線はスピード、制御ともに、磁力でコントロールするのが特徴です。
リニア中央新幹線ができると生活はどう変わるの?
リニア中央新幹線が開通すれば、まず、移動時間が大きく短縮されます。例えば、東京から京都への移動は、新幹線の場合片道2~3時間が必要ですが、リニア中央新幹線なら、約1時間で到着できます。また、品川から大阪へも約67分で結ばれる計画が進められています。
移動時間が短縮されれば、首都圏、中京圏、近畿圏が、一つの巨大な都市圏として成長していくかもしれません。この3つのエリアのGDP(国内総生産=一定期間内に国内で新たに生み出されたものやサービスの付加価値)は約330兆円と試算されています。これは日本のGDPにおける65パーセントを占めており、フランス一国のGDPを超えます。リニア中央新幹線の開通や拡大が実現すれば、物流や人の行動範囲も広がります。
リニア中央新幹線を含めた鉄道の進化は、人、物、お金の流れや距離を変えてくれるかもしれません。
まとめ

鉄道の歴史は、産業革命以降の人類の歴史と、切っても切れない関係にあります。鉄道がなければ、いまの私たちの生活はまったく違うものになっていたでしょう。つまり、私たちの未来の生活は、リニア中央新幹線をはじめとした鉄道の未来によって、大きく左右されるともいえます。人や物、地域がどのように変わっていくのか、皆さんもぜひ、一緒に乗りたい誰かを思い浮かべながら、未来を想像してみませんか?
ライタープロフィール

多数のWebメディアを中心に執筆中のフリーランスライター。情報とともに心を届ける文章をモットーに、恋愛コラムや美容コラム、ライフスタイルから不動産に至るまで多岐のジャンルに渡って執筆中。趣味は音楽、料理、お菓子作りなど。
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