【都市の未来像・スマートシティとは?後編】スーパーシティ法案で日本の都市はどうなる?

【都市の未来像・スマートシティとは?後編】スーパーシティ法案で日本の都市はどうなる?

【都市の未来像・スマートシティとは?後編】スーパーシティ法案で日本の都市はどうなる?

前編では、中国の先行事例とともにスマートシティの現在位置を紹介しました。では、日本は実現に向けてどのような取り組みが行われているのでしょうか。今年成立した「スーパーシティ法」の紹介とともに、未来都市のかたちを探っていきましょう。

スーパーシティ法とは

スーパーシティ法(国家戦略特別区域法の一部を改正する法律)とは要約すると「未来都市を丸ごと作る」ことを目的にした法律です。「丸ごと未来都市」とは少し大袈裟に聞こえるかもしれませんが、これはメディアによる比喩ではなく、内閣府が制度趣旨の説明段階において法案成立以前から用いていた言葉です(参考:「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会)。

どんなことをやるのか

では、具体的にどういった取り組みをめざすのか。内閣府では以下のような異なる10分野について、5領域以上を広くカバーし、住民目線に立った最先端サービスを2030年頃までに実現することをめざすとしています。

(1)移動:自動走行、データ活用による交通量管理・駐車管理、マルチモード輸送(MaaS)
(2)物流: 自動配送、ドローン配達
(3)支払い:キャッシュレス、ポイント還元制度の推進
(4)行政: パーソナルデータストア(PDS)、オープンデータプラットホームワンストップ窓口、API ガバメント、ワンスオンリー
(5)医療・介護: AI ホスピタル、データ活用、オンライン(遠隔)診療・医薬品配達
(6)教育: AI 活用、遠隔教育
(7)エネルギー・水: データ活用によるスマートシステム
(8)環境・ゴミ: データ活用によるスマートシステム
(9)防災: 緊急時の自立エネルギー供給、防災システム
(10)防犯・安全: ロボット監視

また上記に関わる様々な情報について、都市間をまたいだ相互接続が可能なデータ連携基盤「都市OS」の開発も計画されています。これにより、地域住民や民間企業がほかの自治体に関する情報なども取得しやすくなり、社会福祉や利便性の向上が図られています。

なぜやるのか

少子高齢化や人口減少社会の到来を見据え、IT化はもちろん、AIやビッグデータの活用は不可欠となりつつある現在。中央政府だけでなく各自治体での社会実装を加速するため、国家主導による都市設計が求められているという背景があります。つまり、スーパーシティの実現は社会課題の解決に向けた国策という位置づけにあるわけです。

また都市の競争力を高めることで、外国企業の誘致や定着、海外への人材流出を抑える狙いもあるとみられています。

スマートシティとスーパーシティの違い

これまでも日本国内ではスマートシティ実現の取り組みとして、実証特区を設けて交通やエネルギー分野の開発・実験を行ってきました。しかし「スーパーシティ」ではこれらの個別分野に特化した技術の実証実験ではなく、「丸ごと未来都市を作る」ことが目標です。つまり、生活全般にまたがる包括的な取り組みであると定義されています。

実現に向けたプロセス

さしあたって、スーパーシティ実現に向けて以下のような動きが想定されています。

2020年6月:自治体から構想に関するアイディア公募実施(実施済)
2020年12月〜2021年4月:自治体からエリア公募
2021年春頃:エリア選定

どの町が「スーパーシティ」として開発が進められるのかは、各地方自治体への公募により選定されます。選定では計画実現にあたって必要な規制改革の内容、住民の合意を形成できる都道府県知事や市町村長など首長のリーダーシップ力、また最新技術を実装できる企業の存在なども評価対象となる予定です。区域指定を受けた自治体はその後住民投票などで同意を得て、事業計画の策定をめざすことが想定されています。またサービス実現を担う民間事業者は、区域指定を受けた後に公募等の手段により選定することが想定されるでしょう。 

スーパーシティ法では複数分野の革新的サービスを同時に実現しやすくするため、従来では各省が個別に検討していたプロセスも一新。住民の合意を経た基本構想や事業計画の提案をまず内閣総理大臣が受け取り、各省に特例措置の可否について検討を要請するプロセスとなります。

「未来都市」への現在位置

日本国内では2000年代から自治体と民間企業が手を組み、全国各地で既に始まっているスマートシティの開発。足元の未来都市開発の参考として、代表的な事例を紹介します。

Fujisawa SST

Fujisawa SST

Fujisawa SST公式ウェブサイト(外部サイト)より

神奈川県藤沢市で2014年に街開きをした『Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)』は、パートナー企業と藤沢市の官民一体の共同プロジェクト。「100年続く街」をテーマに再生可能エネルギーの導入やセンサー付きLED街路灯によるセキュリティ機能、医療や介護の地域包括システムでの連携などをめざしています。

柏の葉スマートシティ

首都圏郊外であるつくばエクスプレス線「柏の葉キャンパス」駅周辺のエリアで開発が進むプロジェクト。2000年の柏市の都市計画に基づいた施策で取り組みは長く、自治体と民間企業に加えて東京大学や千葉大学など教育機関も含めた「公・民・学」の連携となっています。次世代送電網スマートグリッドの導入による効率的な蓄発電のほか、災害時の電力融通が可能。柏の葉キャンパス駅と東京大学柏キャンパス間の公道で自動運転バスの実証実験も行われています。

スマートシティ会津若松

福島県会津若松市のスマートシティ開発は、2011年の東日本大震災後に復興支援と併走するかたちで始まりました。農地で最適な水分や養分を自動供給するスマートアグリや若者流出を防ぐためのICTサテライトオフィスの建設。そのほか年齢や家族構成など個人属性に応じて提供情報が変わる自治体のサイト「会津若松+」、選択⾔語や訪問時期により異なる観光コンテンツを提⽰するインバウンドサイトなど、WEBサイトの施策もユニークです。

ウーブン・シティ

トヨタ自動車による工場跡地を利用した未来都市プロジェクトです。自動運転やMaaS、スマートホーム技術などを実証できる都市建設をめざし、2021年着工予定。なかでも高速走行する車両専用の道、歩行者と低速度のパーソナルモビリティが共存する道、歩行者専用道という役割の異なる3種類の道路を想定した交通計画が特徴です。

上記は国内スマートシティの事例として取り上げられることの多い、代表的な取り組みです。ただ前編で紹介した中国などの諸外国と比べ、日本のスマートシティ建設が進んでいるかといえば、決してそうは言い切れないのが実状。まだ特定のエリアに限った実証段階であり、住民が最先端技術の利活用によって生活全般で恩恵を感じるまでは時間を要しそうです。

スーパーシティ実現への課題

課題1:住民の合意形成

スーパーシティ法でも重要な要件として示されていることに、理想の未来都市は「住民起点」の未来の社会であることが前提となっています。

そもそも、都市開発では住民の合意を得ずに政府・自治体が開発を進める「オプトアウト型」と、住民の合意形成を経て建設する「オプトイン型」があります。しかし国内でのスーパーシティ建設では区域会議を基に、基本構想の段階から住民の合意を経て開発を進めるオプトイン型が想定されています。

住民の合意を得るためには、都市開発によって自分たちにとってどういったメリットがあるのか、提示する必要あるでしょう。税金を投入してまで取り組む施策なのかどうか、計画段階から厳しいジャッジを経て、合意形成を進めなければなりません。上で紹介した国内の先行都市では、一部住民から都市開発について「どういったメリットがあるのか分かりにくい」と不安視する声が挙がっているという報道もあります。そのため、こうした住民が抱く懸念点を払拭する必要もあるでしょう。

前編でお話を伺った中国ITジャーナリスト・山谷剛史氏も、「国主導でスマートシティ建設を推し進めてきた中国とはプロセスが異なる部分は大きいでしょう」と、やはり日本との違いを指摘します。

「中国では新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、政府の施策によって健康コードの開発が進められただけでなく、国民側もそれに対応するかたちで急速に普及しました。生活インフラの変化について、日本人もどこまでスピード感を失わずに受け入れることができるか、利用者側のスタンスも重要だと思います」(山谷氏)

課題2:強い事業主体の存在

AIやビッグデータを活用したスーパーシティ建設は、最先端技術の実用化を担う民間業者の協力が欠かせません。中国・杭州のスマートシティ進展でアリババが大きな役割を果たしているように、国内でも実証都市の開発ではパナソニック(Fujisawa SST)、三井不動産や日立(柏の葉スマートシティ)、アクセンチュア(スマートシティ会津若松)、トヨタ自動車(ウーブン・シティ)といった中核となる民間企業の存在があります。さらに持続可能な都市開発とするためには、補助金頼みではなく、民間企業がマネタイズできるビジネスモデルの確立も重要となるでしょう。

課題3:社会課題と結びついているか

スマートシティもスーパーシティも「よりよい未来社会を作る」という大きなテーマがあります。つまり技術を活かすための都市開発ではなく、社会課題を解決のための最先端技術の応用、という考え方がベース。技術者や供給者目線ではなく、住民目線に沿った都市開発であるかどうか。この点については構想段階から極めて重要な要件となります。

「中国ではかねてから都市部の交通渋滞が社会問題化しており、スマートシティ建設においてはまずその課題解決が重要でした。ICTによる都市インフラの整備で、スマート交通がいち早く実現したのもそうした背景があります。

一方で日本では地方の人口減少や若者の流出など社会課題は異なり、当然それに向けたソリューションの在り方も中国と違って当然です。内閣府の資料ではスマートシティの先行事例として中国の事例が紹介されていますが、果たして日本の各地域が抱える社会課題や解決アプローチと合致するのかどうか、それぞれが慎重に議論していく必要があると思います」(山谷氏)

【まとめ】住民の「こうありたい」というかたちが最も重要

最先端技術の活用が生活全般に広がる次世代型都市。こう書くと、いわゆるサイバー感溢れる近未来を思い浮かべるかもしれませんが、都市建設の根っこにあるのは住民の意向です。中国の先行事例はあくまで参考として横目で見つつ、それぞれの地域課題解決に根ざしたスーパーシティ建設に期待したいところです。

参考:
「スーパーシティ」構想の実現に向けて最終報告(2019年2月14日「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会、内閣府地⽅創⽣推進事務局)
「スーパーシティ」構想の実現に向けた今後の取組について(2019年2月14日、国家戦略特別区域諮問会議、内閣府地⽅創⽣推進事務局)
「スーパーシティ構想について」(2020年10月、内閣府地⽅創⽣推進事務局)

この人に聞きました
山谷 剛史さん
山谷 剛史さん
中国在住のライター、ジャーナリスト。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。近著は『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本』(星海社新書)。ほか『新しい中国人~ネットで団結する若者たち』(ソフトバンク新書)、『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立 』(星海社新書)など多数。
ライタープロフィール
田中 雅大
田中 雅大
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション代表。関西学院大学卒業後、編プロ、マネー系雑誌等の編集記者を経て2014年設立。AFP認定者。

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