【都市の未来像・スマートシティとは?前編】中国の最新スマートシティ事情

【都市の未来像・スマートシティとは?前編】中国の最新スマートシティ事情

【都市の未来像・スマートシティとは?前編】中国の最新スマートシティ事情

2020年5月、スーパーシティ法が成立し、AIやビッグデータを活用した街作りの実現に一歩近づきました。では、未来都市はどこに向かうのか?今回は民間企業と連携してスマートシティの開発が進んでいる中国の先行事例を紹介します。

スマートシティとは何か

国土交通省の定義によると、スマートシティとは、「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」を指します。

これだけを読んでもいまいちイメージが湧きにくいと思いますが、環境問題や電力・エネルギーの不足、あるいは人口増加や過疎問題といった社会課題に対して、交通状況をセンサーで監視して信号機の管理を行ったり、太陽光発電など再生可能エネルギーを活用して街灯や建築物の電力を供給したりと、ビッグデータやIoTを通じて市民が持続可能なより良い生活を迎えることを目的とした、「国家プロジェクトによる次世代都市」のことです。

街作りとなると、中央政府や各自治体が枠組みを策定するだけでなく、技術を提供する民間企業との連携が当然必要になります。しかしその目標は技術者目線ではなく、あくまで市民目線の施策となることが大切なのはいうまでもありません。

そこで諸外国では主に中央政府がスローガンを掲げて計画を策定し、市民の声を聞き、その要請に応じて民間企業がソリューションを提案して取り組むかたちでスマートシティ開発が進められています。冒頭で紹介した日本の「スーパーシティ法」はまずエリアを公募し、規制緩和によって従来のスマートシティの施策を加速させるべく、医療やエネルギー、交通や行政サービスなど各領域との包括的な連携を見据えた法案となっています。

スマートシティ先進国中国

スマートシティ先進国中国

国内では千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」や神奈川県藤沢市の「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」など、一部のエリアで再生可能エネルギーの活用や監視カメラ付きのLED街灯といった最先端技術の実装が進められています。一方で、世界的にみてスマートシティ開発で具現化が顕著なのが中国です。

民間企業による強力な開発支援

2006年に「第11次五ヵ年計画」で省エネルギー化を含めた循環型社会の確立を示すなど、中国では2000年代後半から既にスマートシティに関する国家レベルの取り組みが始まっています。その後、2010年には武漢市と深セン市をパイロット都市として、スマートシティ構想の実現に取り組んできました。

その後、中国国内の各地方都市でスマートシティの取り組みが加速。その背景にあったのは、平安(Pingan)・アリババ(Alibaba)・テンセント(Tencent)・ファーウェイ(Huawei)の4大企業の存在です。

平安は「1+N」、アリババは「シティブレイン」、テンセントは「WeCity未来城市」、ファーウェイは「城市智能体」という都市インフラのデジタルプラットフォームを開発し、交通、医療、都市管理、環境など地方行政に必要な機能をすべてデジタル管理しようという取り組みです。これらの強力な民間企業と地方自治体がタッグを組み、現在では500以上の都市がスマートシティの取り組みを進めています。

アリババによるスマートシティ先行事例・杭州市

アリババによるスマートシティ先行事例・杭州市

中国の都市インフラのデジタル化のなかでも、先行事例として認知度が高いのが杭州市です。同市に本社を置くアリババが主体となって開発した「シティブレイン」というクラウド型のデジタルプラットフォームを採用する杭州市では、交通状況をリアルタイム映像で監視するAIを導入し、信号機の切替による渋滞緩和や事故発生時の警察への自動通報システムを確立。その結果、自動車の走行速度が15%上昇して渋滞緩和につながり、パトカーや救急車などの緊急車両の到着時間短縮や、自動通報により二次事故の防止に大きく役立ったといわれています。

そのほか、消防署に対して火災発生エリアの消火栓やガス管の情報を提供したり、水道管の水漏れを検知してエネルギー管理を行ったりするAIシステムも実装。杭州市にある杭州蕭山国際空港ではアリババクラウド(Alibaba Cloud)のAI技術を活用し、顔認証による搭乗ゲートでの本人確認も進められています。またアリババの資本参加により、同社のアプリを用いて注文や商品受取も行うスマートレストランも展開しています。

感染対策でもデジタルの「健康コード」を各都市が採用

感染対策でもデジタルの「健康コード」を各都市が採用
※アリババは2月中旬にアリペイ公式サイトで各自治体や民間企業に向けて健康コードの全国版プラットフォームの開発支援を発表

スマートシティ開発の技術は、新型コロナウイルスの感染対策でも応用されました。アリババが「シティブレイン」をベースに開発した「健康コード」は、身分証による本人確認後に質問回答を行い、政府が保有するビッグデータと照合して健康状態を3段階で表示するアプリ。いわゆるデジタル健康証明書として杭州市で導入されたあと、機能性が注目され中国全土に採用されました。その後、地下鉄やバスなど公共交通機関や宿泊施設、商業施設は読み取り機にアプリのQRコードを提示しないと利用できないことがあたり前となり、感染防止に大きな役割を果たしています。

では、なぜここまで中国では急速に健康コードが社会に浸透したのでしょうか。

中国在住歴18年のITジャーナリストである山谷剛史氏は、健康コードの急速な普及について、「都市管理のインフラが整っていたからこそ急ピッチで拡大できた」と話します。

「中国政府の五ヵ年計画のもと、スマートシティ計画がどの程度進められているのか市民の肌感覚ではまだまだ実感できる機会は多くなかったのが現状です。そんななか、各都市における健康コードの急速な普及は、既に中国全土に都市インフラとしてスマートシティ用のシステムが導入されていた証左ともいえます」

さらにそのうえで、山谷氏はスマートシティとしての杭州市の存在感は以前より強まっていると話します。

「以前から杭州市はデジタルプラットフォームを用いた交通管理で注目を集めていましたが、健康コードが成果を見せたことで、他の都市に先駆けてスマートシティ化の取り組みはさらに加速しそうです。2020年7月には杭州市内の企業の電子印鑑をブロックチェーンで記録するサービスが始まったほか、退役軍人向けに指定病院での優先受診や、指定店舗での買い物が割引されるなどの社会保障機能がアリペイ(決済アプリ)に実装されています。そのほか、オンライン予約とホテルでの顔認証による「非接触宿泊」や、シティブレインの仕組みを活用して農村部にセキュリティシステムを導入する『農村版スマートシティ』の計画も発表しています。

また、スマートシティ計画は都市に求められる基本要件は共通する部分が多いのも特徴です。例えばビッグデータとAIを用いた都市交通の安全性向上の施策では、杭州市だけでなく深セン市でもファーウェイと行政機関がタッグを組んで取り組んでいます。今後はデジタル都市開発で一歩リードする杭州市で、どのような先進的なサービスが採用されるか、注目が集まりそうです」

なぜ中国はスマートシティ化で成果を見せているのか

中国政府が2010年に武漢市と深セン市をパイロット都市に選定してから、まだ10年しか経っていません。それでも急速にスマートシティ開発が中国全土で進んでいるのは、どのような理由が考えられるのでしょうか?

「中国では中央政府が五ヵ年計画『十三五国家信息化計画』をはじめ、スマートシティ建設に関する政策を発表し、それを受けて各省や市が地域にあわせた政策を発表してきました。つまり目標が凄くはっきりしています。最近は日本で『行政改革目安箱』が話題となっていますが、中国でも初期段階ではこのようなかたちで市民の声を汲み取り、社会課題の定義を見直す取り組みもありました。また地方政府は各自治体版の五ヵ年計画を発表し、取り組みに関して予算をつけ、民間企業からソリューションを募って業者を選定します。この政府が主導する計画経済の仕組みが、大きな役割を果たしていると考えられます」(山谷氏)

一方で、スマートシティ建設のソリューション部分を担う民間企業の存在も大きかったといいます。

「デジタルプラットフォームの構築において、アリババやテンセントが大きく貢献していることはいうまでもありません。ただ勘違いしてはいけないのは、スマートシティ建設はCSR事業や慈善事業ではなく、ビジネスであるということ。都市構想は社会課題の解決や市民起点の要請に基づいていますが、彼らは政府から業務を受託し、いわばSIer業者(企業のシステム構築の構築、整備などを行う業者)として参画する立場です。彼らが開発したデジタルプラットフォームが多くの都市に採用されれば、商機は増えて経済活動も拡大する。社会貢献だからといって、営利団体としての活動に矛盾を抱えていません」(山谷氏)

アリババはシティブレインについて、中国国内の他都市だけでなくマレーシアでの展開も推進しています。テンセントや平安のデジタルプラットフォームについても、複数の都市で既に導入されています。
また中国で都市インフラのデジタル化が進行する背景には、「便利だと思うものは完成度にこだわらずに市場に出してみる」という、一種の商風習も影響していると山谷氏は指摘しています。

「例えば中国ではスマホのAndroidアプリもまずは完成度が高くなくてもリリースしてみて、その後反応が良ければスピーディに何度もアップデートを重ねる、という戦略が以前から一般化しています。改善を前提として、『まずはサービスを世に出す』というフットワークの軽さと、それを受け入れてシンプルに良いものを選ぶ国民性が、デジタル社会の発展を加速させた側面もあるでしょう」(山谷氏)

中国ではQRコードは2010年に流行していち早くキャッシュレスが定着し、2015年にはウーバーのような配車サービス「ディディ」が普及しています。また2016年にはシェアサイクルも既に街を席巻していました。2015年には信用スコアである「ジーマクレジット」がアリペイ上で搭載され、融資や賃貸契約、商品レンタルなど生活に関わる様々な分野で社会システムとして浸透しつつあります。

そしてこういったサービスのほとんどはスマートシティ建設とは異なり、先にサービスを展開し、政府が後からルール作りをするといった流れでした。つまりデジタルプラットフォーム開発などのスマートシティ構想も、中央政府からの強い要請が推し進めたというだけでなく、民間企業にも底力がもともとあったことで、官民一体となり取り組めていたとも考えられます。

「キャッシュレス普及は偽札が多かったから急速に進んだとか、信用スコアによって国民の行動が一層監視されるだとか、中国の社会システムの発展に対するネガティブな声は、どの時代も一定数あります。ただ、いずれにしても『お得で便利なサービス』が結果的に受け入れられてきました。要は、良いサービスやソリューションはシンプルに定着するよね、という話です。健康コードがスピーディに普及したように、今後のスマートシティ建設の進展も、そこで暮らす生活者の反応次第でさらに加速する可能性があるでしょう」(山谷氏)

官民のスムーズな連携がデジタル化を加速

まだまだ成長段階であるにせよ、中国のスマートシティ建設を振り返ると柔軟に政策を展開する政府と、高い技術力を持った民間企業との強い連携が垣間見えます。では、日本においてはどのようなスマートシティ構想が実現されてきたのか。次回後編で紹介していきます。

この人に聞きました
山谷 剛史さん
山谷 剛史さん
中国在住のライター、ジャーナリスト。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。近著は『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本』(星海社新書)。ほか『新しい中国人~ネットで団結する若者たち』(ソフトバンク新書)、『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立 』(星海社新書)など多数。
ライタープロフィール
田中 雅大
田中 雅大
主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション代表。関西学院大学卒業後、編プロ、マネー系雑誌等の編集記者を経て2014年設立。AFP認定者。

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