世界中で懸念される「気候変動」

「気候変動」とは、気候(気温・降水量など)に長期的な変化が生じることを指す言葉です。近年は「気候変動が地球環境に与える問題」を指す際に使われることも増えてきています。
なぜ、「気候変動」が世界的な懸念・話題になっているのでしょうか?まずは二つあるとされている要因について見てみましょう。
一つは自然要因。もともと地球は成立から今まで、温暖化や寒冷化を繰り返してきました。また海洋の変動や火山の噴火などによる大気中のエアロゾル(エーロゾル。空気中に漂うチリなどの固体、液体の粒子を指す)増加、太陽活動変化などが気候変動に大きく関わります。
そしてもう一つの要因が人為的要因です。地球を覆っている大気に含まれる温室効果ガスは地球が宇宙へ放射しようとする赤外線を吸収する効果があります。温室効果ガスは主に二酸化炭素やメタン、フロンであり、人為的要因のなかで問題視されるのは二酸化炭素です。
適度な温室効果ガスがあることで地球は人間が住める気温に保たれているのですが(もし、まったく温室効果ガスがなかったら地表の温度はマイナス19度にも下がるといわれています)、増えすぎると熱がこもり、地球温暖化の原因となるのです。
二酸化炭素は人間活動の活発化で増加します。化石燃料の使用、森林の破壊などが大きな要因です。人為的な要因で二酸化炭素の排出量が増えたのは、産業革命以降です。文明の発展と二酸化炭素排出量増加は切っても切れない関係なのです。もちろん、自然要因の変動もありますが、20世紀後半から21世紀の現在まで、気候変動の最大のものは地球温暖化であるといえるでしょう。
温暖化が続き災害や異変が起きるように

では、温暖化によりどのような異変が起きているのでしょうか。まず思い起こされるのは「世界の気温が高くなった」こと。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書によれば、「21世紀末の地球の平均気温は20世紀末に比べ、温室効果ガスの大幅な削減を行った場合は約0.3〜1.7℃、非常に高い温室効果ガス排出量が続いた場合は約2.6〜4.8℃上昇する」とされています(気象庁 地球規模の気候変化の予測(外部サイト)より)。
IPCCでは「2度と1.5度のわずか0.5度の違いでさえ、海面上昇や酸性化、干ばつや洪水を引き起こすほどの極端な気象変化を増加させる」としているので、人間が体で感じる1度の上昇と、それが地球全体に及ぼす影響は全く異なるのです。産業革命は18世紀後半から19世紀のことですが、それ以前と現在までの間で、世界の平均気温は1度上昇してしまいました。
では、環境省による「令和2年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」を基に近年起きた気象災害を見てみましょう。
2018年7月には西日本を中心とした豪雨災害がありました。岡山県、広島県、愛媛県を中心に200名を超える犠牲者を出し、約7,000件の家屋が全壊しています。さらに、2019年は首都圏にも脅威をもたらした2つの台風が襲来しました。台風15号と19号です。いずれも関東圏を直撃し、特に房総半島では二度にわたり大きな被害が出ました。東京や横浜といった大都市にも容赦なく襲いかかったこれらの台風は、特に19号においては東京都江戸川臨海で最大瞬間風速43.8メートルを記録、関東の7箇所で最大瞬間風速40メートルを超えるという凄まじさでした。東日本の堤防140箇所の決壊が起きたのもこの台風によってです。
もちろん、豪雨のなかには気温上昇ではなく気圧配置によるものもあります。ですが、近年の巨大台風の発生は、海面水温が下がらず高いままであることが要因となっています。また気温の高温化も記憶に新しく、2018年には7月23日に埼玉県熊谷市で日最高気温歴代全国1位となる41.1℃を記録。全国的にも記録的な猛暑となりました。
これらが一時的な異常気象なのか、温暖化の影響を受けているのか、科学的な証明はなかなか難しいといわれていましたが、国立環境研究所ではイベントアトリビューション(異常気象などの極端な事象の発生確率を、地球温暖化などの長期的な変化との関係で表すこと。またその研究手法)により2018年7月の猛暑の要因解明に取り組みました。その結果、「工業化以降の人為起源による温室効果ガスの輩出に伴う地球温暖化を考慮しなければ、2018年のような猛暑は起こり得なかった」とする結果を出しました。要するに影響はあった、ということです。
もちろん、異常気象は日本だけの話ではありません。以下は気象庁による「世界の年ごとの異常気象(外部サイト)」(2019年)です。これを見ると、世界中で高温、少雨、サイクロン、大雨などが起こっていることが分かります。
2020年6〜7月のヨーロッパの熱波では、死者が推定1,400人出ました。また、2019年から2020年にかけてオーストラリアで起きたかつて例がないほどの大規模な森林火災は、人間だけではなく野生動物や生態系に大きな影響を与えました。火災の直接的な原因は人為か自然要因か不明な火災もありますが(森林火災のなかには放火によるものが少なくありません)、この時期にオーストラリアが高温と乾燥にみまわれていたことが規模を拡大したことは間違いありません。
このほかにも、南極の氷の溶解による海面上昇で標高が低い島国が沈むこと(南極の氷床には地球の半分以上の淡水資源があるため、氷の溶解で海水面が上昇します)、気温の上昇に伴い北極圏の永久凍土が溶け出し、地中に封じ込められていた大量の温室効果ガス(二酸化炭素やメタン)が放出される危険性なども懸念されています。自然要因はともかく人為的要因なら人間が行動を変えることで温暖化を防ぐことができるはずです。実際、二酸化炭素排出規制は既に1990年代から世界的な課題となっています。
地球温暖化に対する各国と日本の取り組み――2020年は新たなスタートの年

国際間で気候変動について話し合う場として「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)」があります。1997年のCOP10で具体的な目標値を設定した国際協定「京都議定書」が採択され、2015年のCOP21では2020年以降の目標について記したパリ協定が採択され、2016年に発効されました。
パリ協定では「気温上昇を2℃より十分下方に抑える(2℃目標)とともに1.5℃に抑える努力を継続すること、そのために今世紀後半に人為的な温室効果ガス排出量を実質ゼロ(排出量と吸収量を均衡させること)が盛り込まれました(環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書 令和元年版)。
締約国は自身の目標値を設定し、気候変動枠組み条約事務局に提出します。日本は「2030年までに温室効果ガス排出量26%削減」また、長期目標は「今世紀後半のできるだけ早期に『脱炭素社会』の実現をめざし、2050年までに温室効果ガスの排出量80%削減をめざすとともに、世界全体の排出削減に最大限貢献し、経済成長を実現」としています。
2019年に開かれたCOP25では、日本は石炭火力発電について削減する態度をはっきり提示できず、世界から批判されました。石炭火力発電は温室効果ガスの排出量が多いため、COP25では石炭火力発電をやめなければ、気候変動対策は無駄になるとまで指摘されていたのです。
しかし2020年7月になり、問題視されている石炭火力発電技術の輸出(ボイラーやタービンなどの石炭火力発電の主要機器の輸出と、各国の石炭火力発電事業への事業投資)については「石炭火力発電の輸出は支援しないことを原則とする」と方向転換し、一歩前進となったのです。
また、2020年10月26日には、菅首相は所信表明演説にて「2050年までに温室効果ガス排出量ゼロ」を目標とすることを掲げました。2020年は日本にとっても再スタートの年といえるかもしれません。
個人でもできる対策――子供に手渡す未来

個人でもできることはあります。2018年度(平成30年度)の日本の温室効果ガス排出量は12億4,000万トンです。うち、工場など産業部門での排出量が最も多く47.2パーセント。家庭部門は12.2パーセントとなっています(環境省温室効果ガス排出・吸収量算定結果より)。
日本の各家庭が1年間に排出する二酸化炭素は3.20トンですが、うち電気由来が約7割となる2.16トンとなっています。環境省によれば、家庭での二酸化炭素排出量の内訳は、暖房が約2割、給湯が約2割、照明・家電製品が約5割です。暮らしのなかでどうアクションすれば二酸化炭素排出量を減らせるか、環境省の「COOL CHOICE(外部サイト)」には様々なヒントが掲載されています。
また、環境省では「家庭エコ診断制度(外部サイト)」を展開しています。これは「各家庭のライフスタイルや地域特性に応じたきめ細かい診断・アドバイスを実施することで、効果的に二酸化炭素排出量の削減・抑制を推進するための制度」です。
特設サイトではざっくりと現在の二酸化炭素排出量を計算し、アドバイスを得られますし、さらに詳しく傾向と対策を知りたい場合は、受診を申し込むと、資格を持つ「エコ診断士」によるエコ診断を受けることも可能です。
一人の努力を重ねて大きな力にし、家庭分野の温室効果ガスを減らしてみましょう。
ライタープロフィール

地方移住や人生のセカンドステージ、環境問題、暮らしなどを幅広く取材するが、ライフワークは「人と自然の関わり」で、主に島(特に小笠原)をフィールドとして取材を重ねる。「小笠原が救った鳥」(緑風出版)「小笠原自然観察ガイド」(山と渓谷社)など、小笠原に関する著作は5冊。
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