JAXAは2040年までに、月面基地で1,000人が生活、2050年には火星への移住も計画すると発表しています。今と同じ宇宙食が主流となるのか、あるいは地上のように料理が作れるようになるのか。宇宙食の未来像について、歴史を振り返りながら予想をしてみましょう。
そもそも「宇宙食」とはどんなもの?

宇宙食とは、地表から400km上空に建設された国際宇宙ステーション(ISS)で活動する宇宙飛行士向けに提供される食品のこと。
現在食べられているメニューの数は300種類程度あります。水やお湯で戻して食べるスープやライス、温めても食べられるレトルト食品や缶詰、ビーフジャーキーやドライフルーツといったそのまま食べる加工食品などが持ち込まれています。
なお、宇宙食として認められる条件には以下のような事項があります。
・容器や包装が燃えにくいこと
・常温で少なくとも1年半の賞味期限があること
・食中毒などを予防するための衛生性が確保されていること
・飛び散らないこと、匂いが強くないこと
これらはどれも、宇宙ステーションの安全や宇宙飛行士の健康を守るために必要なものです。
例えば、無重力下では食材が四方八方に飛び散ってしまいますが、食べカスが精密機械に付着すると故障の原因になります。そこで、液体は粘り気を高くしたり、塩やこしょうなどの粉末調味料は液体にしたりと、食材がバラバラにならないような加工が施されているのです。
また、生鮮食品が持ち込まれることもありますが、「生で食べられる」「食後のゴミが少ない」「4週間以上の保存が可能」といった条件を満たさなければなりません。実際にはミカンやリンゴなどの果物、パプリカや玉ねぎの野菜が条件をクリアし、宇宙飛行士に届けられました。
宇宙食の今の形
古くから宇宙食は、宇宙開発を続けてきたアメリカやロシアの製造会社によって提供されていました。
人類の宇宙進出が始まった頃の宇宙食は、一口サイズの固形食や練り歯磨きのチューブに入ったゼリー状の食品ばかりだったそうです。配合されていたのは必要な栄養素のみでどれも味気がなく、宇宙飛行士たちには不評でした。
その後、宇宙でもお湯が使えるようになり、加水食品が採用されたことでバリエーションも増加。フタ付きのアルミ缶をトレーに乗せて加熱するタイプなどが開発され、徐々に、地上の様子に近い食事が食べられるようになっていきました。
日本でも宇宙食は開発されています。長い歴史のなかで実験が繰り返され、民間企業の製造開発にも応用可能な厳密な基準が定められていきました。
宇宙に持ち込まれる日本食

アメリカやロシアの製造会社によって提供される宇宙食は「標準食」と呼ばれており、宇宙での食事の多くを占めています。ただ、標準食だけが食べられているわけではなく、自分の好きな食べ物を持ち込める「ボーナス食」という枠もあります。日本人の宇宙飛行士はボーナス食としての審査を突破した「宇宙日本食」を持っていくことが可能です。
宇宙日本食とは日本の食品メーカーが開発している宇宙食です。慣れ親しんだ日本の味を楽しんでもらうことで長期滞在の精神的なストレスを和らげ、実験や船外活動のパフォーマンスをあげてもらいたいという目的で開発されています。
現在、宇宙日本食に認証された食品は45品目。具体的にはどのようなメニューがあるのか、見ていきましょう。
白飯
お湯で戻して食べるアルファ米の白飯です。アルファ米とは炊きあがったお米から、旨味を保ちつつ水分だけを抜いた状態のもの。 宇宙ではお湯は70度で沸騰してしまいますが、低温でも確実に、かつ美味しく復元できるよう調理されています。
カップ麵
重力の弱い宇宙ステーション内でも飛び散らないよう、スープの粘度が高められたカップ麵です。地上で流通しているカップ麵とは異なり70度のお湯で戻すことが可能。一本一本の麺がバラバラになってしまわないよう、一口大の塊状になっているのが特徴です。
焼きそば
通常、インスタントの焼きそばは湯切りを行う必要がありますが、宇宙ステーションではお湯を捨てることができません。そこで、お湯を吸い切るタイプの麺が採用されています。
コンビニの唐揚げ
コンビニで売られているホットスナックの唐揚げが宇宙向けに改良され、実際に宇宙食として認証された例もあります。地上の製品との主な違いは粉末が飛び散らないよう小さなサイズに加工された点、温め直さなくても食べられる点の2つです。
サバの味噌煮
日本食を代表するおかずとして、鯖の味噌煮の缶詰も宇宙日本食に認証されました。飛び散りを防ぐために汁の粘りが強くなっています。
切り餅
もち米と水だけを原料に用いた杵(きね)つき餅です。宇宙では電子レンジやオーブントースターではなく、専用の加熱器で食品を挟んで温めます。そのため、市販の製品よりも薄くし、調理にかかる時間が短くなるよう工夫されています。
醤油
宇宙飛行士の健康を考慮し、通常の醤油に比べて食塩分を25パーセントカットした醤油です。1滴ずつ垂らせるように、容器を押しているときだけ中身が出る押し出し式の密封ボトルが採用されました。
人類が宇宙移住するときは宇宙で自給自足に!?

加工技術や保存技術が向上したことにより、宇宙食の種類は増えたものの、まだまだ十分なバリエーションとはいえません。一度に輸送できる量にも限りがあるほか、生鮮食品の長期保存も難しいなど、課題はまだまだ山積しています。
それらの食糧問題に対し、月面基地での自給自足による解決を目指しているのがJAXAと民間企業の共同プロジェクトです。食品メーカーや大学、研究機関といった様々な分野のプロフェッショナルが集まり、空気や水の少ない宇宙環境でも食料が生産できるような技術の開発に取り組んでいます。
例えば、動物や魚介類などの細胞を培養することでたんぱく質を確保する培養肉の技術や、ミドリムシなど繁殖力の高い藻類を育てる農園、AIやドローンが効率的に植物の栽培を行う工場のような施設も考案されており、いずれは宇宙でも食料生産ができるようになるといいます。
機械による食料生産だけでなく、人工の光や風を使った、自然と触れあえる菜園を基地内部に作る計画もあります。空気や水を完全にリサイクルできる循環システムも必要と考えられていますが、実はシャワーなどで使った水を98%再利用する技術は既に開発済み。実現すれば新鮮な野菜や魚が手に入るだけでなく、適度なリフレッシュ効果も期待できそうです。
さらには、料理を作れる3Dプリンターの開発も進められています。ただ料理を出すだけでなく、コンピューターが利用者とコミュニケーションをとって、その人の健康状態に最適なメニューを提案してくれるようなシステムの実装も考えているといいます。近い将来、SF作品のような、ボタン操作一つで料理が立体的に現れる体験も可能になるかもしれません。
まとめ
宇宙でも地上と同じような料理が食べられるよう、日々開発が続けられています。一方で、民間人も気軽に宇宙に行けるようなプロジェクトも現在進行中です。そう遠くない未来、現在のように地球から食べ物を持っていくのではなく、宇宙空間で地産地消を行うのが主流となるのかもしれません。
参考:
宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター(外部サイト)
日本の文化と感性で挑む、宇宙での未来食 - 農林水産省(外部サイト)
ライタープロフィール

主にマネー系コンテンツ、広告ツールを制作する株式会社ペロンパワークス・プロダクション所属。立教大学卒業後、SE系会社を経て2019年に入社。主にクレジットカードやテック関連のWEBコンテンツ制作や企画立案、紙媒体の編集業務に携わる。
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