単純作業のプロセスを記憶し、コンピュータ上で自動化
RPAとは、Robotics Process Automation(ロボティクス・プロセス・オートメーション)を略したもの。これまで人間が担っていたコンピュータ上の単純作業を、ソフトウェアロボットが代替し、自動化することを指します。RPAが大きな効果を発揮するのは、単純かつ繰り返し実行が必要なデスクワークの業務領域だと言われています。RPAの導入コンサルティングを手がけるPwCコンサルティング合同会社のビジネス・トランスフォーメーション事業部の中村哲さんはこう語ります。
「例えば、あるデータを社内の基幹システムからダウンロードして、Excelで集計し、加工した資料を関係者にメールに添付して送信する、という業務プロセスがあるとします。こうした作業は通常、人間がコンピュータ上で様々なアプリケーションを操作して作業を行っていますよね。1日30分から数時間程度で済む単純作業ではありますが、年間で見るとその作業にかかる一人あたりの時間は100時間以上に達することもあります。さらに、同じことをやっている人がほかにもいるかもしれません。その作業プロセスをすべてRPAのソフトウェアロボットに記憶させて自動化することで、単純作業に費やしてきた時間をぐっと減らすことができるのです」
RPAによって特に大きなメリットを期待できるのが、経理業務や人事業務。RPAは社内の経理システムのシステム改修を行わずに、デスクトップ上での操作のプロセスを記憶して作業を自動化できるため、IT部門が多忙で対応が難しい軽微なシステム改修を待たずに、RPAにより自動化して人間の作業負担を軽減することができます。
「経理業務は比較的作業が単純なうえに、大量のデータを処理しなくてはなりません。PwC内で稼動しているRPAロボットの中でも一番使われているのが、請求処理を代行するロボットです。契約システムに請求情報を入力し、またシステムの請求情報を抽出して、そこから請求書のドラフトを作成し、担当者に確認を行うメールも作成してくれる。経理担当者はそれをチェックするだけでいいので、膨大な業務が発生する月末・月初の時期も、残業が大幅に減り、正確性が求められる膨大な業務ストレスから解放されたと好評です。また業務量も近年増えているのですが増員せずに対応できています」
基幹システムを改修せず、現状のシステム下での作業を自動化

RPAの独自性は、既存の基幹システムを改修するのではなく、現状のシステム下での工程を自動化できることにあります。つまり、社内外で利用しているシステムの種類を問わず、自動化していくことができます。
特に、前出の会計業務や商品・サービスの発注業務など、ルーティンワークの色が強い仕事においては、RPAを活用できる場面は多いとのこと。こうした作業の自動化は、日本の少子高齢化社会の中で起きている人材不足の問題の解決にもつながります。
「例えば、業績が向上して経理業務のボリュームが増えたときに、経理担当者を新たに採用して教育するには時間とコストがかかります。また、業績が悪化して業務量が減ったとしても、一度雇った社員を辞めさせることは簡単にはできません。昨今はよい人材をすぐに雇ったり手放したりということがどんどん難しくなっており、RPAにより業務を自動化しておくことで業務量の調整はロボットが稼働するパソコンの台数を増減することで対応することが可能となり、人材配置の柔軟性が高まります。より少数の人材で業務継続性が高まるわけです」
営業先の顧客情報を自動で調べてくれるロボットも
過去に数多くの企業のRPA導入を手がけてきた中村さん。これまでで印象に残っている事例とはどのようなものでしょう。
「特に効果を発揮したのは、金融機関で導入したRPAによる営業支援ロボットです。営業担当が顧客へ訪問する前日にカレンダーに訪問先を設定しておくことで、顧客情報や取引実績などを社内データベースから集めて朝一番にメールが届いているものです。これまで各自が下準備していた時間が浮くので、その時間を使って営業トークを考えたり、新しい提案内容を考案したり。『人間の仕事がロボットに奪われる』とネガティブに考えるよりも、単純作業などから解放されることで、『人間にしかできない仕事に集中できるようになる』と考えるべきだと思います」
RPAのテクノロジーは今後、AIや様々なソリューションと連携が進むことで、活用範囲は様々な領域に広がっていくでしょう。さらに、ロボット自らが学習していくこともできるようになっていくと中村さん。いまのRPAテクノロジーに対して「こんなものか」と思わず、RPAテクノロジーの進歩に興味を持って注目していく必要がありそうです。
「日本は業務品質に対する強いこだわりがあり、新たな技術の導入に本格的に踏み切れない企業が多いのが現状です。AI-OCRによる請求書の内容認識も98%はミスなく対応できるのですが、この2%に拘ってしまい、本格適用を見送ってしまう。それを『100%になるまで導入できない』と考えるのではなく、『2%のミスをどうチェックし、カバーするのか』を考えていくことが大事だと思います。せっかくロボットにできることが増えているのですから、『こうすれば実用化できるんじゃないか』、『ここの機能を組み合わせれば使えるんじゃないか』とわれわれ人間側に業務を再設計するための柔軟な発想が必要になると考えています」
新たなテクノロジーを学習し続ける柔軟なマインドが求められる

今後もテクノロジーの進化は止まりません。古い技術はどんどん淘汰されていき、ビジネスに求められるマインドも変わっていくでしょう。これからの時代を生きるビジネスパーソンには、どんな能力が求められるのでしょうか。
「今後、デジタルネイティブの環境で育ったミレニアル世代の人材が6割を超えていきます。そうした状況で人材をつなぎとめるためにも、また、日本企業の生産性を向上させるためにも組織全体で新しいテクノロジーを常に学習し続けていく必要があります。新しいテクノロジーを使いこなして柔軟に業務を再設計していく能力こそが、今後さらに求められていくのではないでしょうか。RPAはその先駆けとして企業内で粘り強く使いこなしていくべきツールだと思います」
この人に聞きました

PwCコンサルティング合同会社 ビジネス・トランスフォーメーション事業部 Cognitive
Services Automation部リーダー 兼 コンサルティングRisk & Quality部部長。大手日系SIベンダーから外資系コンサルティング会社を経て、2009年にプライスウォーターハウスクーパース株式会社(現PwCコンサルティング合同会社)に入社、約20年のコンサルティングサービス経験を持つ。近年はAIやニューテクノロジーを活用した業務の自動化や変革に取り組むと共に、コンサルティングサービスの変革に伴うリスク管理の向上に取り組んでいる。
ライタープロフィール

明治大学大学院理工学研究科新領域創造専攻(現・建築学専攻総合芸術系)修了。編集プロダクション・ミニマルにて企業・大学等の広告制作を手がける。現在はユースカルチャー誌やビジネス系Webサイトなどでライターとして活動。
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