5Gの普及には何が必要か?~日本の現状と今後の方向性

5Gの普及には何が必要か?~日本の現状と今後の方向性

5Gの普及には何が必要か?~日本の現状と今後の方向性

2020年3月、日本でも5Gの商用利用が始まりました。早速5G対応のスマートフォンが相次いで発売されて話題を集めていますが、実際には5Gはどこまで普及しているのでしょうか?5Gの現状と課題について、みずほ銀行産業調査部の澤田洋一さんに聞きました。

産業への展開に期待。通信の対象が人からモノへと広がる5G

―まず、5Gの特徴について教えてください。

澤田:1980年代以降、通信規格はほぼ10年サイクルで高度化を遂げ、その度に多彩なサービスが生まれてきました。日本での携帯電話サービスは1987年に始まりましたが、最初の機能は音声通話だけでした。その後、通信規格の世代が変わり、通信技術が高度化するなかで、2Gではメールができるようになり、3Gからはインターネットや、音楽、ゲームが携帯(スマホ)で楽しめるようになりました。そして今の4Gでは、YouTubeやNETFLIXのような動画サービスが一気に普及し、移動中でも動画を見ることがあたり前になりました。このように、通信規格の高度化によって私たちの生活も大きく変化してきたのです。

通信規格の高度化の歴史

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総務省資料等より、みずほ銀行産業調査部作成(大きな画像はこちらをクリック

今回、ついに日本でもサービスが始まった5G(第5世代移動通信方式)の主な技術的特徴は、「超高速大容量」、「高信頼・低遅延」、「多数同時接続」の3つです。5Gは4Gに比べて約20倍の通信速度、数10倍の同時接続数を実現、同時に遅延の速度を10分の1に抑えることができるといわれています。

このうち、特に注目されているのが「高信頼・低遅延」です。5Gを活用して無線区間の通信遅延が抑えられるようになれば、自動車や機械、ロボットなどを遠隔操作できるようになるため、例えばバス等の自動運転や遠隔医療、工場や建築現場での省人化、危険地域でのロボットの活用など、幅広い分野への展開に期待が寄せられています。つまり、5Gは「人と人」だけでなく、「人とモノ」、「モノとモノ」をつなぐことを可能にするという点、そして幅広い産業への活用が期待できる点において、従来の通信規格以上に大きな可能性を持つ通信規格なのです。

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自動運転のイメージ 5Gで自動制御の精度が上がる可能性も

先行する諸外国での5G事情は?

―アメリカや韓国など一部の国では、2019年に商用利用を始めています。「日本は5G活用で遅れを取っている」との声も聞かれますが、実際はどうなのでしょうか?
澤田:確かに商用利用の開始は遅れましたが、だからといって日本が5Gの活用で諸外国に遅れをとっているというわけではありません。2019年に商用利用を始めた国々でも、まだ5Gを利用できるエリアやサービスは限定的で、思うように普及が進んでいないのが現実です。例えば、イギリスでは2019年5月に5Gの商用利用が始まっていますが、実はイギリス国内では4Gのネットワークがまだ十分に整っておらず、今は5Gの普及のために4Gのカバレッジ改善(目標95%)に取り組んでいるところです。

もちろん、少しずつではありますが、5Gの活用例も出てきています。アメリカでは大手電気通信事業者Verizon Communicationが韓国のSamsungと協業で、ケーブルテレビ事業者の有線でのブロードバンドサービスを無線で代替する事業を手掛けるなど、家庭向けのサービスも始まっています。また、2019年11月に商用利用を始めた中国では、手術用ロボットを用いた5Gによる遠隔手術を実施したことが報告されています。とはいえ、いずれの国も人々が実生活のなかで5Gの恩恵を実感するという段階には、まだ至っていません。日本は商用利用開始こそ1年遅れたものの、その分、諸外国における5G展開の実例から学ぶことができますし、既に4Gのネットワークはほぼ100%整っているので、むしろ今後は5Gの分野で世界をリードできる可能性もあるのではないでしょうか。

インフラ整備が課題。日本でも普及には時間を要する見込み

―日本では、5Gの活用はどの程度進んでいるのでしょうか?

澤田:残念ながら、まだほとんど進んでいませんし、今後も自動運転やロボットの遠隔操作といった産業分野で活用されるようになるには、相応の時間を要すると考えられています。その一番の要因は、5Gのネットワークを支えるインフラの整備に従来以上の時間がかかることです。

例えば、スマートフォンについても、既に通信キャリア各社が5G対応の機種やプランを売り出してはいますが、5Gのネットワークに対応できる場所がまだ極めて限定的で、今、5Gのスマホを持っていても、実際にはほとんど4Gのネットワークにしかつながりません。そもそも5Gにはこれまでよりも高い周波数帯を使うのですが、その周波の特性として5Gの電波は、直進性が高く、雨などで減衰しやすいため、遠くまで届きません。そのため、5Gの電波を必要なエリアまで届けるためには、基地局と呼ばれるアンテナ等の無線設備をこれまで以上に数多く設置する必要があり、時間もコストも掛かります。各通信キャリアでは、今後5年間でいずれも数千億円規模(NTT docomo:7,950億円、KDDI:4,667億円、Softbank:2,061億円、Rakuten:1,946億円など)を投じると発表していますが、それでもなお、全国に5Gネットワークが整備されるまでは、相応の時間が掛かる見込みです。

加えて、デバイス(スマホ)側にも課題があります。まず価格です。5Gのスマホは当然機能もハイスペックになり、当面は価格が高額になることが考えられるため、なかなか手軽には買えません。特に日本では、2019年10月に電気通信事業法の改正が行われ、最新のスマホは2万円以上値引きができなくなったため、従来のような大きな端末値引きも期待できません。次にスマホの性能です。現状は、スマホ自体のコンピューティング能力が十分ではなく、5Gの高速大容量で低遅延の通信をフルには活かせません。今後5Gが広く一般に普及していくためには、インフラの整備と併せて、デバイスの低価格化と処理能力の向上も欠かせない条件となるでしょう。

―今後5Gはどのくらいの時間をかけ、どのように普及していくのでしょうか?
澤田:私は、日本における5Gは段階的に時間をかけて普及していくと予想しています。当面は個人が動画やゲームを楽しむBtoC分野を中心に普及します。先にあげた自動運転や遠隔医療、工場での機械制御といった産業分野に広げるためには、ネットワークのエリアを広げるだけでなく、産業利用にも耐えられるようにネットワークを高度化していく必要があることから、時間がかかります。早くとも2020年代半ば以降になるのではないでしょうか。したがって、5Gの商用利用が始まったからといって、私たちの生活が急激に近未来化するわけではありませんし、5Gの需要が期待したほどには増えなかった場合には、通信キャリアがインフラ投資に消極的になり、普及までにより長い時間を要する可能性もあります。

5Gに関する今後の方向性

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みずほ銀行産業調査部作成(大きな画像はこちらをクリック

「ローカル5G」が5G普及の起爆剤に?

―5G普及を促進するために、国はどのような取り組みを行っているのでしょうか?
澤田:5Gの普及は通信キャリアのみならず、幅広い産業で大きな経済効果が期待されており、総務省の「電波政策2020懇談会」の試算では、5Gによる経済波及効果は間接的なものも含めると、50兆円にのぼると予想されています。

しかし、5Gの通信インフラが整っていないエリアの企業や工場では、5Gを活用することができないため事業化が進みません。そこで国では、一般の事業者が通信キャリアに頼らずに5Gネットワークを構築できる制度「ローカル5G」を整備し、2019年12月に事業者からの受付を開始しました。通信キャリアだけでなく一般事業者にも5Gの使用を認めることによって、5Gエリアの早期拡充、ユーザー主導での5Gの新たなユースケース(使用例)を発掘することが狙いです。このローカル5Gのメリットは、5Gのネットワークを各事業者が自前で構築できること。つまり、各事業者が自社の敷地や工場などの限定したエリアで、5Gの通信環境を自ら構築し、自社のニーズに合わせて自由に活用できるようになることです。

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(大きな画像はこちらをクリック

出典:総務省 令和2年度「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に係る提案募集 事業概要 別紙(外部サイト)

ローカル5Gには、次のようなメリットがあります。

・安定性
そのエリアで帯域を専有できるため、通信の干渉や輻輳(混雑)が起こりにくく、ネットワークが安定する

・セキュリティ
外部ネットワークに接続しないことも可能で、工場内データ等が外部に漏れるリスクを軽減できる

・柔軟性
自社のニーズに合わせて、柔軟にネットワークの構築ができる

・機動性
地方など通信キャリアの投資が後回しになりがちなエリアでも、速やかなネットワーク構築ができる

もちろん、ローカル5Gを実際に構築・運用するには、「通信キャリアのサービスと比べてどの程度コストが低廉に抑えられるか」、「一般事業者がどこまで5Gのネットワークを使いこなせるのか」など、クリアすべき課題も指摘されています。既に富士通やNECなど複数の企業がローカル5Gへの参入を表明していますが、今後、どのような展開になるのかは、現時点では未知数です。

―まだ5Gの商用利用が始まったばかりですが、早くも6Gへの取り組みも始まっているといいます。こういった目まぐるしい通信技術の進化と、私たちはどのように向き合っていけば良いのでしょうか?

澤田:まず、世間では「5Gのような超高品質な通信技術をユーザーは求めていない」という声も聞かれます。同じように4Gが始まったときも、最初は「3Gで十分。動画なんてスマホで見ない」といわれていましたが、今ではスマホで動画を見ることは、私たちの生活にすっかり浸透していて、逆に多くの人は、もう動画のない3G時代には戻りたくないはずです。5Gも4Gと同様に、時間はかかると思いますが、私たちの生活になくてはならない技術になっていくと思います。
 その前提で、通信技術の進化にどのように向き合っていくかについてですが、通信技術を含めて近年、テクノロジーの進化の速度はとても早く、それに伴って新しいサービスも次々に生まれてくるため、そのすべてを取り入れようとすると大変です。ですから、ユーザー自身で必要なものと必要でないものをしっかりと取捨選択することが求められると思います。ただし、取捨選択で捨て過ぎるのは避けなくてはなりません。これまでを振り返っても、テクノロジーの進化によって私たちの生活はどんどん便利になってきました。5Gが本格的に普及すると、新しいテクノロジーを取り入れる人と取り入れない人では、テクノロジーの進化から得られるメリットに今まで以上に大きな差が生まれると思います。必要なものを適切に取り入れるためには、ユーザー側もその必要性を見極めるリテラシーを身につけることが大切になるのではないでしょうか。

この人に聞きました
澤田 洋一さん
みずほ銀行産業調査部 テレコム・メディア・テクノロジー・チーム 参事役
澤田 洋一さん

2003年みずほ銀行入行。2015年よりみずほ銀行産業調査部TMTチームに所属し、アナリストとして通信業界を担当。過去に以下のレポートを執筆。
Mizuho Industry Focus Vol.197「パーソナルデータ利活用推進に向けて」、Mizuho Industry Focus Vol.216「5G時代のモバイルインフラシェアリング拡大に向けて」、Mizuho Short Industry Focus Vol.163「楽天の通信事業参入について」
ライタープロフィール
相山 華子
相山 華子
慶應義塾大学卒業後、民放テレビ局の報道部記者を経てフリーランスのライターに。雑誌や企業誌、ウェブサイトなどで主にインタビュー記事を手掛ける。

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