恵方巻の食品ロスは氷山の一角

様々な観点から、近年問題視されている食品ロス。
例えば、毎年2月になるとスーパーやコンビニに並ぶ季節商品「恵方巻」がこのところ日本の食品ロスの代名詞として取り上げられています。
売れ残った恵方巻が廃棄される金額はおよそ10億円にものぼるという調査もあり、今年はスーパーやコンビニでも予約制にしたり、販売をやめるところも出てきました。
参考:大学名誉教授「恵方巻き廃棄試算は10億2800万円」おそらく経済的損失はこれを上回るであろう理由とは(外部サイト)
でも恵方巻はいわば氷山の一角。日本では年間640万トン以上もの食品ロスが発生しています。これは、国連世界食糧計画(WFP)の食糧援助量の約2倍もの量。つまり、世界では飢餓に苦しむ人々がいる一方で、日本ではまだ食べられる食糧が大量に廃棄されているという現実があるのです。
こういった状況を改善するべく、日本では企業やNGOなどの組織で様々な取り組みが行われています。国も食品ロスに関する法律「食品ロス削減推進法」を2019年10月から施行し、削減を後押ししています。
参考:食品ロスと飢餓〜「食の不均衡」について考える〜(外部サイト)
食品ロスを社会課題への解決につなげる

大量に発生している食品ロスは一体どこから出ているのでしょうか。2018年に農林水産省と環境省が発表した内訳では、家庭からが約45パーセント、事業者からが約55パーセントでした。事業者からがやや多いものの、ほぼ半々ぐらいというのが実情です。
流通過程で半分ほどの食品が廃棄されていることに対して、企業や行政では様々な取り組みが行われています。
農水省やNPO組織では、規格外品などまだ食べられるのに廃棄される商品を福祉施設などへ無償で提供する、「フードバンク」と呼ばれる活動を実施しています。廃棄される食品を児童養護施設や子ども食堂、母子支援施設など、必要としているところに橋渡しをする団体は全国に80ほどあります。
この取り組みは、流通過程での食品ロスが減ってそれが必要な人に渡り、健康面や経済面も支援することにつながります。フードバンクに食品を提供した企業は廃棄のための費用が削減できるほか、税制上の優遇措置もあります。
フードバンクと連携した活動として、全国で3,700ヵ所(2019年6月時点)まで広がりを見せている「子ども食堂」は、全国で年間100万人もの子どもたちが利用するなど、需要が拡大しています。子ども食堂とは、主に家庭環境などの事情から、孤食をせざるを得ない子どもや、貧困から栄養のある食事を満足に取ることができない子どもたちに、無料または安価で食事を提供する仕組みです。
岡山県に本部を置くスーパーマーケットチェーン、株式会社ハローズも、加工食品だけでなく生鮮食品も含め、廃棄される食品を積極的に子ども食堂などに寄付し、大幅に廃棄コストを削減しています。売上高のもっとも高い店長は「捨てればごみ、あげれば笑顔」と、社員のモチベーションにもつながると語っています。
ITを使った仕組みで食品ロスを有効活用
最近では、飲食店で廃棄寸前の料理や、賞味期限前に捨てられてしまう食品を安く購入できるインターネットサイトやスマートフォンアプリも開発されています。そのひとつ、食品ロス削減アプリ「TABETE(タベテ)」(株式会社コークッキング 東京都・港区)は、突然キャンセルになった料理や、売れ残りそうなパンなどを、アプリを通じて消費者が安く買える仕組みを作っています。
これまでに約21万人のユーザーと飲食店や惣菜店を中心とした約470店舗が登録し、累計で約1万7千食の食品ロスを削減しています。
一方で、インターネットでメーカーと消費者をつなぐフードシェアリングを行っているのが「KURADASHI.jp」(株式会社クラダシ 東京都・品川区)です。日本では、商品そのものには問題がなく賞味期限内であっても、終売商品や季節商品、パッケージ変更、賞味期限間近などの理由で販売できず、廃棄されてしまうことが数多くあります。こういった食品を安価で販売するプラットフォームが「KURADASHI.jp」です。
同サイトは利用者による購入金額の一部が社会貢献活動に取り組む団体に寄付されるなど、社会課題の解決につながる仕組みが付加されているのが特徴です。
美味しく食べられる期限をきちんと知ろう

家庭から出る食品ロスも全体の45パーセントと見逃せません。生ゴミの中には、手つかずの食品が4割もあり、そのうちの4分の1は賞味期限前にも関わらず捨てられているという調査があります。
この背景には、消費者が「消費期限」と「賞味期限」を正しく理解してないという背景があります。賞味期限とは、おいしく食べることができる目安である期限です。保存方法に従って保存していれば、期限を過ぎたからといって、すぐに食べられなくなるわけではありません。
メーカー側も「賞味期限」の表記を年月にしたり、延長するなど工夫を凝らしています。
カルビー株式会社は、2019年6月からポテトチップスの賞味期限を6ヵ月に延長し、表記も日付ではなく年月に変更すると発表しています。油やパッケージの改善により、賞味期限そのものも改善しています。
参考:消費者庁 期限表示(消費期限・賞味期限)(外部サイト)
規格外の野菜を染料に、食品ロスをファッションにも活用

食品ロスを、食べることではなくほかの用途に使うことで削減しようという試みを推進する企業もあります。アパレル大手の豊島株式会社(愛知県・名古屋市)が展開するプロジェクト「FOOD TEXTILE」は、規格外の食材やカット野菜の切れ端などを食品関連企業や農園から買い取り、植物に含まれる成分を抽出、それを染料にして製品を染め上げています。
廃棄レタスからイエローのTシャツ、紫キャベツからピンクのネクタイなど、食品から生まれる自然で温かみのある色合いが特徴です。ほかブランドとのコラボレーションも進み、食品などから染め上げたコンバースフットウエアのシューズ「オールスター フードテキスタイル HI」が生まれるなど、その取り組みが広がりつつあります。
欧州では廃棄食品で作るレストランも
食品ロスの問題は、国内だけでなく、国際的な課題です。世界中で生産される食糧のうち、3分の1に相当する約13億トン(年間)が廃棄されていると推定されています(国連食糧農業機関FAO調べ)。このため、「食品ロス削減」は、国連サミットで採択された国際目標であるSDGs(持続可能な開発目標)の目標12「持続可能な消費と生産」でも取り上げられ、2030年までに食品ロスを半減させる目標が謳われています。
EUはこれをとらえ、食品廃棄物削減のための法令を整備したり、様々な対策を講じています。オランダでは廃棄される食料で作った料理を提供するレストラン「INSTOCK」が人気です。同レストランは、環境に優しい電気自動車でスーパーマーケットや食品販売店などを回って、廃棄される食品を回収、店舗で調理してお客様に提供しています。
アムステルダムから始まった「INSTOCK」はほかの都市にも広がり、今では廃棄食品から作る調理本を出版したり、食料保存のためのワークショップも実施するなど、食品ロスを減らす試みを啓蒙する拠点になっています。
このほか、ドイツのベルリンでは賞味期限を過ぎた食品だけを販売する「サープラス」というスーパーマーケットが生まれるなど、食品を廃棄することなく循環させて持続可能な経済を作ろう、という気運が活発になっています。
これまでご紹介したケースのように、食品ロスは必要な人から見れば「宝の山」。廃棄されていた食品が社会課題の解決や新たなビジネスの創出を生むリソースになり、循環型の経済を作り出しています。
もちろん、私たちにもできることはたくさんあります。賞味期限を正しく理解し、買い物をする時は「必要な分だけ買う」、料理の際は「食べきれる量を作る」、食事の際は「おいしく食べきる」ことを心がけ、なるべく廃棄する食品の量を減らしていきましょう。
出典:
消費者庁「食品ロスを知る・学ぶ」(外部サイト)
消費者庁「食品ロス削減の取組事例を見る」など(外部サイト)
国連食糧農業機関FAO調べ(外部サイト)
農林水産省 食品ロス量(平成28年度推計値)の公表について
ライタープロフィール

環境ライター・ジャーナリスト。NPO法人「そらべあ基金」理事。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。
著書に「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)ほか。雑誌「ミセス」文化出版局、ウェブサイト「Sustainable blands Japan」などにも記事を連載中。
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