話題の「eスポーツ」、高校生と取り組む新たな動き

話題の「eスポーツ」、高校生と取り組む新たな動き

話題の「eスポーツ」、高校生と取り組む新たな動き

世界的に人気急上昇中のeスポーツ。海外では巨額の賞金をかけた大会が開催されたり、名門大学が優秀選手対象の奨学金制度を設立するなど、何かと話題を集めています。今回は「世界に遅れをとっている」とされる日本のeスポーツ事情をご紹介しましょう。

海外の動きが大きく先行

海外の動きが大きく先行

eスポーツはエレクトロニック・スポーツの略で、コンピュータゲームやビデオゲームを使って個人やチームで対戦するスポーツです。最近ではバスケットボールや野球といった既存のスポーツに関連するゲームだけでなく、シューティングゲームや格闘ゲーム、レーシングゲームなど幅広いジャンルのeスポーツが続々と登場しています。
日本政府はクールジャパン戦略の一環として、eスポーツを後押ししており、2019年の茨城国体では文化プログラムとして、全国都道府県対抗eスポーツ選手権が開催され、各地で実施された予選大会には約1万5,000人が参加し、約600人が本戦に進みました。

出典:スポーツ庁 スポーツ審議会配布資料 平成31年1月31日 (外部サイト)

しかし、海外の動きは日本より大きく先行しています。カリフォルニア大学アーバイン校ではeスポーツ選手への奨学金制度を設立しましたし、2019年7月にニューヨークで行われたシューティングゲームの世界大会では、アメリカ人の16歳の少年が優勝、300万ドル(約3億2660万円)の賞金を獲得しました。eスポーツへの関心の高まりとともに、スポンサー企業からの賞金は増加傾向にあります。

韓国では、2012年にeスポーツ振興に関する法律が施行され、ネット上などでの試合観戦も盛んに行われるようになっています。東京都市大学社会メディア学科准教授を務める李洪千氏は、「韓国におけるeスポーツは国民のスポーツであり、今やその人気は野球やサッカーを抜く勢いである」と同大学のウェブサイトで述べています。
出典:東京都市大学新聞(外部サイト)

また、バスケットボールの最高峰リーグであるNBAも、2018年から初の公式eスポーツリーグ「NBA 2 K League」を発足させました。
既存のスポーツにとってもeスポーツはファン拡大のために必要なものであり、新たなビジネスチャンスだと捉えられているようです。

2018年にインドネシアで開催されたアジア大会ではデモンストレーション競技として実施され、2022年に中国の杭州で開催予定の同大会では正式種目に認定されました。将来は五輪競技としても採用されるのではないかという見方もあります。

もっとも、コンピュータゲームをなぜスポーツと位置づけるのかという意見や、こうしたゲームに対してネガティブな印象を持つ人は多く、eスポーツの今後がどうなっていくのか、興味深いところです。

新聞社とITC企業が高校生にフォーカスした「連盟」を設立

新聞社とITC企業が高校生にフォーカスした「連盟」を設立

そうした中で、2019年に大手新聞社の毎日新聞とITC企業のサードウェーブが「eスポーツを日本の新しい文化にしていきたい」という思いで設立した全国高等学校eスポーツ連盟(JHSEF)に注目が集まっています。一足飛びに先行する北米や韓国を追い抜くという施策ではなく、高校生にフォーカスしてeスポーツの健全な発展をめざすというところに特長があります。

サードウェーブは全国の高校でeスポーツ部設立をめざしたものの、教師や保護者からの理解を得ることが難しいうえ、eスポーツをするためのゲームPCが高価なために、学校からの協力を得ることも困難であるという問題に直面しました。

同社では部活動を始める高校にPCの無償貸与をするなどの支援を行って参加校を増やし、2019年3月に第一回「全国高校eスポーツ選手権」の開催にこぎつけました。しかし、そうした流れを加速するためには一企業の努力では限界があったため、毎日新聞社の協力も得てJHSEFを設立、同年12月には第二回大会も開催されました。

全国高校eスポーツ選手権は、世界的に人気がある「ロケットリーグ」と「リーグ・オブ・レジェンド」の2 タイトルで争われ、第二回大会にはのべ222チームがエントリーし、予選を勝ち抜いた8チームが東京都内で開催された決勝大会に進出、激しい戦いを繰り広げました。2020年に第三回大会が開催されることが発表されていますが、開催時期については未定です(2020年6月現在)。

eスポーツの持つ価値

eスポーツの持つ価値

JHSEFが高校生のeスポーツに着目した背景には、いくつかの理由がありました。ひとつはeスポーツが持つユニバーサルスポーツとしての価値と教育的な意義です。
eスポーツは、一般的なスポーツと違い、性別、障害の有無や体力の差を乗り越えた選手たちが同一のフィールドで戦うことができます。第二回の優勝チームのメンバーは男女混合でしたし、ほかの高校では小学生の時の交通事故が原因で車椅子生活になった男子生徒が「eスポーツならできる」と入部して活躍、プロのeスポーツチームにも加入しています。
また、教師の間からは「不登校の生徒が学校に来るきっかけになる」との期待もあります。第一回大会では中学時代に不登校となった生徒が、eスポーツ部で仲間ができてキャプテンとしてチームを準優勝に導いたということもありました。

また、eスポーツには戦略を立てる能力や運動能力を向上させる効果もあります。
勝ち上がるためには、一般的なスポーツと同様、戦略が大切です。JHSEFが開催する大会は、現在はチームで戦う団体戦のみですが、選手たちは戦略ノートを試合の合間に見ながら、インカムで指示出しや情報交換をしていきます。また競技力の向上のためには、動きを体に覚え込ませることも大切で、これも一般的なスポーツと変わるところはありません。

さらにコミュニケーションの向上にも役立ちます。競技力の向上のために仲間たちと話し合う時間が必要ですし、ゲームという共通言語があるため、海外からの留学生がeスポーツを通じて学校生活に馴染むことができたということもあったといいます。
野球が甲子園で開催される大会をめざす選手たちによって、国民的なスポーツになっていったように、こうした価値を持ち合わせたeスポーツを、高校生たちの力で日本の新しい文化にしていきたいと考えたのです。

eスポーツの健全な発展がもたらす可能性

未来想像WEBマガジン

そうしたeスポーツの特長が評価されてきた一方で、やはり教師や保護者の間からは不安を指摘する声はあります。

JHSEFでは、ゲーム依存症など健康の問題へ対処するために、日本スポーツ協会の公認スポーツドクターで牧田総合病院脳神経外科脊椎脊髄センターの部長を務める朝本俊司氏を理事に迎え、医学的見地から活動をサポートする態勢を整えています。

さらに、eスポーツの先進国である米国にある北米教育eスポーツ連盟と連携し、グローバルな視点での教育とeスポーツについての知見を高め、各校の教師たちと共有しようとしています。

こうした取り組みがeスポーツの健全な発展につながれば、日本の競技力の向上につながるだけでなく、eスポーツをベースにした産業や職業の誕生で高校生の未来を広げる可能性もあります。また、eスポーツはデジタルに触れるきっかけともなるものなので、将来の世界や日本を牽引する人材の育成につながるかもしれません。

まだ、始まったばかりではありますが、実に様々な可能性を秘めたeスポーツに注目してみてはいかがでしょうか。

※本記事に掲載した大会などの今後の予定については、延期・終了の可能性もあります。詳しい情報は、各大会や協会の公式ホームページなどでご確認ください。

ライタープロフィール
本松 俊之
本松 俊之
大学卒業後、大手新聞社勤務を経て、ロイター・ニュース・アンド・メディア・ジャパン株式会社にてアドソリューション・クリエイターとして勤務(2013年6月~2019年2月)。現在はフリーランスライターとして幅広い分野で執筆中。

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