都市農業とは?これからの社会が考えるべき新しい緑化の形

都市農業とは?これからの社会が考えるべき新しい緑化の形

都市農業とは?これからの社会が考えるべき新しい緑化の形

街中を歩いていて「こんなところに畑が?」と驚いたことはないでしょうか。農業の担い手不足が問題となっている一方で、都心部の土地需要がまだまだありそうな地域でも残っている「都市農業」の活用に注目が集まっています。

世界の大都市で注目の「アーバンアグリカルチャー」

世界の大都市で注目の「アーバンアグリカルチャー」

2019年12月、東京都練馬区で「世界都市農業サミット」が開催され、ニューヨーク、ロンドン、トロント、ソウル、ジャカルタから都市農業の専門家が集まりました。こうした世界の大都市では、屋上や空地に畑を作る都市農業、すなわち「アーバンアグリカルチャー」を拡大しようという動きがあります。例えば、フランス・パリでは市長号令のもと市内に計100ヘクタールの都市農園を整備する動きが既に進んでおり、2020年には世界最大級ともいわれる1.4ヘクタールの屋上農園が開園します。

世界都市農業サミットにおいて話題となったキーワードは「気候変動」「都市緑化」「貧困対策」「コミュニティ拠点」などでした。
食の供給源としての農業の役割もさることながら、都市住民が様々な活動をしながらグリーンインフラ(自然環境が有する機能を社会における様々な課題解決に活用しようとする考え方)として都市農業を育てていこうという潮流が生まれているのです。

例えば、ニューヨークのマンハッタン島には大小さまざまなコミュニティ農園が150ヵ所ほどもありますが、これらは貧困層に対して健康な食を提供するとともに、大雨の際の雨水浸透など環境を整える役割を担っているそうです。大都市では農地化できるスペースは少ないため、政府も後押しして屋上や公園、空き地などを活かした農園づくりが進められています。
しかし、日本においての都市農業はこうした世界の潮流とは少し異なる状況にあります。

住宅街に残る都市農地

住宅街に残る都市農地

東京は世界でも指折りの経済都市ですが、その中心部23区のうち11区にはいまだに江戸時代から続く農地が残されています。その面積は500ヘクタール以上で、23区総面積の約0.85%にあたります。そのさらに郊外となると市内の5~10%の面積を農地が占めており、そもそも東京は世界の大都市に比べて都市農地が多いのです。
徳川幕府が江戸に拠点を構え、参勤交代で地方からの往来も盛んになると、急激に増える人口に対応するべく江戸近郊では農地開墾が盛んになりました。

18世紀初頭に世界に先駆けて江戸が人口100万都市を実現できたのは玉川上水などの上水道確保と、近郊農業の振興が鍵だったといわれています。戦前までは現在の東京都庁のすぐそばまで神田川沿いに水田が残っていました。

やがて市場流通網も整い、近郊農業の役割もかつてより薄れていきましたが、それでも代々続く農家は土地資産を守りながら、農業を続ける選択をしました。生産緑地法など税制面の優遇措置もあってのことですが、結果として日本では住宅やビルの隙間に田畑が多く残るという不思議な状況になったのです。

都市計画や農業経営の観点からするとこのような有様は無計画で非効率に映るかもしれません。しかし、都市のなかのグリーンインフラという観点からすると、農地を内在させた日本型の都市の現状は、むしろこれからの都市生活のありかたを考えるうえでの「大きな財産」と捉えることもできます。

では、実際にどんな活用の方法があるのでしょうか。続いて、筆者が運営するコミュニティ農園の事例を紹介します。

コミュニティ農園が地域を強くする

コミュニティ農園が地域を強くする

コミュニティ農園「くにたち はたけんぼ」は中央高速道国立府中ICのすぐ横、甲州街道と都道に挟まれた住宅街の中にあります。この地域はもともと多摩川流域の水田地帯だったため、今でも農業用水が流れザリガニやドジョウ、メダカ、カエルなどの生き物たちも数多く見られます。

「はたけんぼ」で特に人気のあるのも田んぼ体験です。150組以上の家族が田植え、稲刈り、収穫祭まで参加しますが、都心や神奈川県など遠方からの参加者も、珍しくありません。単純にお米作りだけではない水路での生き物探しや、収穫祭でのお餅つきなどの農村らしい体験の需要が高まっているのです。

また、企業や団体の向けの貸農園もあります。個人家庭菜園ではなくコミュニティ活動の場としての利用を促進しているため、畑を借りている団体ごとに勉強会や懇親会を開催して、採れたて野菜を使ったピザを特製の石窯で焼いたり、バーベキューや芋煮会を楽しむというようなイベントが毎週のように開催されています。

農園ではポニーや烏骨鶏、ウサギなどの動物が飼われており、親子ともども飽きることなく半日ほど楽しむことができます。こうした体験プログラムはどうしても休日に偏りがちなのですが、平日は地域の親子の居場所となっています。

週3回開催される小学生向けの放課後クラブをはじめ、未就学の親子が集まって畑作業をしてお弁当を食べるピクニックのような会も毎週開催しています。年間のべ5,000人以上の人々が「はたけんぼ」に出入りして濃淡様々な関係性を築いているのです。

商業施設や公民館などの空間と農園が大きく異なるのは「不便である」ということです。例えば、鍋料理をつくるにしても薪を割る、火をおこすなどの作業が必要で、参加者多くの協力が必要です。こうしたプログラムを実施するのは、地域の大人たちです。みんなで育てた野菜を協力して収穫・調理し、みんなで食べるという共同作業の存在がコミュニティの要となっているのです。

このようなコミュニティが地域ごとに結成されていけば、少子高齢化といった諸問題の打開策の一つになるかもしれません。

日本の都市農業をインバウンドで世界に発信

日本の都市農業をインバウンドで世界に発信

「くにたち はたけんぼ」は“コミュニティ農園"という形態をとっているとはいえ、活動の幅を広げるには収益の獲得が不可欠です。
そんな中、インバウンド需要の高まりに合わせて「はたけんぽ」の様々なプログラムを外国人向けに提供し収益につなげる取り組みも行っています。農園で野菜を収穫して、近くの古民家でそれを食材にしたランチを食べる日帰り体験のほか、近くのアパートを1棟借りて民泊に改装し、宿泊しての農体験が可能なプログラムもあります。

また、近くの学生たちと連携して「イスラム教女性向けの宿泊農体験」や「ショートステイ留学生向け日本文化体験」なども実施しています。外国人観光客からすると「TOKYO」といえば渋谷や秋葉原のイメージが強いため、インパクトがあり人気が高いそう。

ただし、日本でもまだまだこうした都市農業の活用事例は少ないといえます。ローカルコミュニティを形成しながらグローバルに価値を提供、発信することができれば都市農業は「都市の中の里山空間」としてさらに価値を発揮していけるのではないでしょうか。

ライタープロフィール
小野 淳
小野 淳
1974年生まれ。(株)農天気代表、NPO法人くにたち農園の会理事長。TVディレクターとして科学や環境問題を題材に番組を制作。
30歳で農業法人に転職。生産、流通、貸農園などに従事ののち、2014年独立。
東京国立市のコミュニティ農園「くにたち はたけんぼ」を拠点に婚活、忍者体験など様々な農サービスを提供。
農園の近くに古民家食堂や民泊も開設し外国人向けアグリツーリズムに力を入れている。
NHK「菜園ライフ」監修、実演。著書に「東京農業クリエイターズ」「都市農業必携ガイド」など。

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