現金を持たない時代が来る?「キャッシュレス経済」のメリットとデメリット

現金を持たない時代が来る?「キャッシュレス経済」のメリットとデメリット

現金を持たない時代が来る?「キャッシュレス経済」のメリットとデメリット

PayPay、LINE Pay、メルペイなど企業の新規参入が続くキャッシュレス決済事業。経済のキャッシュレス化は、私たち消費者にどんな未来をもたらすのでしょう。『LINEとメルカリでわかる キャッシュレス経済圏のビジネスモデル』著者、安岡孝司さんにお話を伺いました。

現金決済にかかるコストは年間約8兆円!

現金決済にかかるコストは年間約8兆円!
キャッシュレス化の波は世界的に広がっている

生活から現金が消える…。そう遠くない未来に、そんな日が来るかもしれません。政府が推進するキャッシュレス化の波は、社会全体にますます広がっています。「キャッシュレス経済」は、私たち消費者にとってどんなメリットがあるのでしょうか。元みずほ情報総研金融技術開発部長の安岡孝司さんはこう語ります。

「キャッシュレス化のいちばんのメリットは、中小企業や個人経営の小売業などの負担軽減です。例えば、飲食店では営業終了後にオーナーや店長がレジ締めの作業をして、1日の売上を計算します。そして、レジの中の現金はその日のうちに夜間金庫へ預けるなどして厳重に管理しなくてはなりません。また会計の過程で釣り銭のミスなどが発生する可能性もあります。強盗に襲われる危険もあるので、警備にも費用をかけなくてはなりません。みずほ総合研究所の試算によると、こうした現金決済にかかるコストは年間8兆円といわれているのです」

日本のGDP(国内総生産)はおよそ540兆円。つまり、そのうちのおよそ2%(8兆円)が現金決済にかかるコストとなっているのです。

「キャッシュレス化が進めば、中小企業や個人経営の店舗の負担も軽くなります。そのぶん、本業のビジネスやサービスの方にコストをかけられるようになる。少し遠回りかもしれませんが、それは消費者にとっても大きなメリットにつながるはず。もちろん、現金を持ち歩かなくて済むというメリットもありますね」

また、日本ではまだまだ現金しか使えない店舗が多く、訪日観光客によるインバウンド経済効果の妨げとなっているといわれています。キャッシュレス化によって生産性を高めることは、国の最重要課題となっているのです。

キャッシュレス決済のリスクは通信障害

日本のキャッシュレス化が遅れている背景には、治安が良く現金を盗られるリスクが低いこと、偽札が少なく現金に対する信頼度が高いことなどがあげられます。一方、キャッシュレス決済は使用記録が残るため、情報漏洩のリスクなども不安視されているようです。

「消費者の視点からすると、購入履歴が筒抜けになるというのは一つのリスクですよね。ただ、この点はクレジットカードでも同じで、企業を信頼するしかないということになります。LINE Payやメルペイなどの新進サービスを展開する企業は一つの失敗が大きなネガティブ・インパクトにつながる分、かなり厳重に管理している印象を受けます。特にLINEは金融機関との提携を強化し、金融機関に近い意識でセキュリティ向上に取り組んでいるようです」

さらに、安岡さんはこう指摘します。

「現状で想定されるリスクは、通信やキャリア端末の方でしょうね。例えば、端末の充電が切れてしまったら決済ができない。また、大規模な通信障害が発生した場合でも同様のことが起こります。スマホを使えない高齢者にとっても、キャッシュレス化が生活の障壁になる可能性もあります。そうした面の対策を含めて、今後も検討がなされていくのではないでしょうか」

店舗とユーザーの両者にメリットがある

店舗とユーザーの両者にメリットがある
個人経営の店舗ほどキャッシュレス化が進む可能性も

今後のキャッシュレス事業のカギを握るのは「中小・個人経営の店舗でどの程度、普及が進むか」だと安岡さん。クレジットカードによる決済は読み取り端末の導入にもコストがかかるうえ、店舗が負担する決済手数料も3~5%と決して安くはありません。そのため、特に個人経営の店舗などではクレジット決済の導入を見送っているケースが多いのです。一方で、LINE Payでは導入店舗を増やすため、2018年8月から3年間、QRコード決済での手数料を無料化。PayPayも2018年12月のスタート時には、ユーザーへのポイント還元率20%、店側の手数料を無料といったキャンペーンを展開しました。

「キャッシュレス事業者も、まずは導入店舗を拡大しないことにはユーザーにも普及しないと考えているようです。クレジットカードの端末に比べて、QRコード決済はタブレットにアプリをインストールすればすぐに決済が使えるようになるため、導入にかかるコストも低い。そうして徐々に店舗の数が増えていけば、自然とユーザーの数も増えていくでしょう」

さらに、消費者がキャッシュレス決済を検討するにあたってはもう一つ大きなポイントがあります。それは、キャッシュレス決済を対象とする税制優遇制度。2019年10月からの消費税増税にあたり、キャッシュレス決済にはポイント還元制度が適用されているのです。

「キャッシュレス決済のポイント還元で、増税前よりも安く買い物ができるケースもあります。制度が分かりにくいという声もありますが、つまりこれはキャッシュレス化が遅れている中小店にもインセンティブを与える制度といえるでしょう。QRコード決済の支払い限度額は、クレジットカードより少額なので、店舗側の導入リスクも低いといえます」

消費者、店舗、決済事業者それぞれのメリットが明確になりつつある現在、キャッシュレス社会の実現はますます加速していくことが予想されます。多種多様な決済サービスのメリット・デメリットを見極めることが、私たち消費者の未来を占うポイントだといえるでしょう。

この人に聞きました
未来想像WEBマガジン
安岡孝司さん
1985年、みずほ情報総研(旧富士総合研究所)入社。金融技術開発部部長などを経て、2009年から芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授(2019年3月まで)。博士(数理学)(九州大学)。著書に『企業不正の研究』(日経BP社)、『Corporate Fraud in Japan: Risk Management and Governance 』(Cambridge Scholars Publishing)、『Interest Rate Modeling for Risk Management』(Bentham Science Publishers)、『債券投資のリスクとデリバティブ』(大学教育出版)、『市場リスクとデリバティブ』(朝倉書店)などがある。近著『LINEとメルカリでわかる キャッシュレス経済圏のビジネスモデル』(日経BP社)が話題。
ライタープロフィール
未来想像WEBマガジン
山本 大樹
明治大学大学院理工学研究科新領域創造専攻(現・建築学専攻総合芸術系)修了。編集プロダクション・ミニマルにて企業・大学等の広告制作を手がける。現在はユースカルチャー誌やビジネス系Webサイトなどでライターとして活動。

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