愛するものに投資を惜しまない。沼の人vol.3「カメラ」編

愛するものに投資を惜しまない。沼の人vol.3「カメラ」編

愛するものに投資を惜しまない。沼の人vol.3「カメラ」編

実用に購入したつもりが、思いも寄らない楽しさを見出してハマることもある「カメラ沼」。シリーズ3回目の今回は、写真を撮るだけに収まらないカメラの魅力について、ブログやYouTubeなどでカメラ愛を発信するtoshibooさんに伺いました。

沼とは?

何かに夢中になると言う意味で使われる「沼」という言葉を耳にする機会が多くなりました。漫画やアニメ、舞台、文具、書籍と夢中になれるものならなんでも沼の対象になるといって良いでしょう。また、沼にハマった人=「沼に住む人」は、愛の投資という意味で、商品や関連するほかの沼へと惜しみなく金銭を投じることもあります。

沼に住む人が愛するものには、どのような魅力があるのでしょうか。このシリーズでは、沼に住む人に魅了されている理由を教えてもらいます。

第3回は、レンズを交換する度に変わる味わいからカメラ沼にハマったというtoshibooさんに、カメラ沼の魅力を紹介してもらいました。

toshibooさんがカメラ沼にハマったきっかけは「気軽さ」

toshibooさんがカメラ沼にハマったきっかけは「気軽さ」
日常で撮影したスナップ写真

今回話を伺ったtoshibooさんは、紙媒体を中心とした広告のデザインを本業とする傍ら、2017年からブログでカメラやレンズの使用感をレビューしたり、撮影した作品を公開したりしてカメラ沼を楽しんでいます。2020年からは、YouTubeでもカメラやレンズについて語る動画の公開も始めました。

カメラに触れるようになって約17年というtoshibooさんですが、最初から沼の住人だったわけではありません。「最初は簡単だと思ってカメラを始めたけど、実は奥が深かった」といいます。toshibooさんがハマった沼は、どのような入り口だったのでしょうか。

「カメラの操作ってシャッターを押したら終わりですよね。だから、写真ってクリエイティブな作品を生み出す敷居が低いなと思って、一眼レフカメラを購入したんです。シャッターを押すだけで、画質のきれいな写真が撮れる。カメラやレンズ一つ一つの金額は高いんですけどね。それと、カメラの機械らしいメカメカしさに心をくすぐられるというか、見て触っているだけでも楽しくなってくるんです。後付けかもしれませんが、これも買った理由の一つです」

カメラを購入してからは、外へ出て日常の風景を撮影する機会が多くなったといいます。

toshibooさんがよく使うカメラとレンズ
toshibooさんがよく使うカメラとレンズ

さらに、toshibooさんは、「写真を撮る趣味」が仕事のモチベーションにも影響していることに気がつきました。

「仕事で疲れてきちゃうと、無感情というか気が落ち込んでしまって何かに感動するということが減ってしまうんです。でも、デザイナーである以上『このデザインはかっこいい』『これはかわいい』という感受性を保っておきたい。そこで気軽にできる感受性を維持するトレーニングにもなるなと思い、外へ出て日常の風景を作品として撮るようになりました。カメラを持って歩くと『光の具合がきれいだから写真に収めよう』とか、何かを感じないといい写真は撮れませんし、撮り続けることでより気づくことが増え、感性が刺激されるんです」

カメラを扱う人のなかには、山の頂上から見える朝日や星空、氷点下で凍る滝など特別な風景を撮影するために遠方へ出向くことも少なくありません。しかしtoshibooさんは、遠出をしなくてもカメラは十分に楽しむことができる沼だといいます。

こうして積極的に日常の風景を撮影していくうちに、カメラ本体やレンズの違いによって写真の仕上がりが変化することを発見。これこそ、沼にハマったきっかけでした。

「背景のボケ方とか色ののり方とかが、レンズによって変わるんです。最初に買ったレンズでは物足りなくなってきて『今度は試しにこれを使ってみよう』と撮影すると、同じ被写体でも今までと違った絵が撮れる。こうやって試したレンズの使用感を、作例として撮った写真とまとめてブログで発信するサイクルがすごく楽しくて、気がついたら沼にハマっていました」

toshibooさんがカメラ沼にハマったきっかけは「気軽さ」
風景撮影の帰りに撮影したスナップ写真

次々と試してみたくなるレンズの世界

レンズを変えて味わう写真の違い

一眼レフカメラを購入するときには、本体と実用的な使い方に向いた標準ズームレンズがセットになった『レンズキット』を購入する人が多いといいます。

キットレンズは、焦点距離が24mm~100mm程度の標準ズームレンズが一般的で、子供の姿や旅行の記録写真といった日常の撮影にはこれで事足ります。そのため大概の人は、キットレンズで満足できるようです。

「キットレンズで満足できない人が次に触れるのが、各カメラメーカーが出している低価格の単焦点レンズです。キットレンズではカバーできない明るさで、中古なら1万円以下でも購入できます。単焦点レンズだと、標準レンズよりもきれいに背景がボケてくれる。これを味わっちゃうと、もっとほかのレンズが試したくなってしまうんです。単焦点レンズをきっかけにカメラ沼に引き込まれる人が多いせいか、ファンの間では『撒き餌レンズ』なんて呼ばれることもあります」

『撒き餌レンズ』に含まれる約3万円のレンズ(左)と近い性能だが約13万円のレンズ(右)
『撒き餌レンズ』に含まれる約3万円のレンズ(左)と近い性能だが約13万円のレンズ(右)
上記約3万円の『撒き餌レンズ』での作例
上記約3万円の『撒き餌レンズ』での作例

さらにキットレンズでは、屋内の暗い場所や星空の撮影は難しいそうです。そのため暗い場所の撮影をするなら、F値(しぼり値。数字が小さいほど光を多く取り込めるため、暗い場所での撮影に向く)が小さい明るいレンズ。広い範囲を撮影するためなら広角レンズ、もっと遠くの風景を撮りたければ望遠レンズなど、撮影シーンや雰囲気に適したレンズを使用することで写真に深みを出すことができます。

同じ焦点距離でF値を変えて撮影した作例。左のほうが背景がぼけている
同じ焦点距離でF値を変えて撮影した作例。左のほうが背景がぼけている

中古を売って中古を買う。そのサイクルで出会える新しい体験は「実質無料」

なお、カメラ本体とレンズのメーカーは基本的に一致していないと使えません。つまり、使ってみたいレンズがあっても、持っているカメラとマウント(カメラ本体とレンズを接合する機構)が合わないと試せないわけです。

「なかには、様々なカメラのマウントにも対応するレンズメーカーもあります。異なるマウントのレンズを装着できるマウントアダプターも存在しますがレンズ本来の性能を出すには、やはりマウントを揃える必要があります。試したいレンズがあると、マウントが対応する本体を購入するため、持っているカメラやレンズをまとめて売ってしまうこともあります」

持っているカメラやレンズを売って、その売り上げで新しいレンズなどを買うサイクルができあがっているそう。特にレンズは年数が経った機種であっても、大きな不具合などがない限りは、一定の金額まで下がればそこからさらに値段が大きく落ちることはなく売買されるそうです。

「買いたいカメラやレンズよりも、売った金額の方が大きくなって儲けが出ることもありますし、新しいカメラやレンズの金額が売り上げよりも高くなることもあります。でも、これまでとは全く違う写真体験が待っていると思えば、支払ったお金以上の価値があると考えています。だからおかしな計算ですけど、差額分を支払ったとしても金額以上の体験も含めて計算すると『実質無料だな!』なんて満足してしまうんですよね。それに自宅でレンズを保存するのではなく、単に中古カメラ屋に預ける料金を支払っているだけ。……とかいって、『クラウド防湿庫(カメラやレンズ専用の保存庫)』と思うような自分は、ちょっと重症かもしれませんけどね」

toshibooさんが『実質無料』と感じた約2万5,000円のレンズ
toshibooさんが『実質無料』と感じた約2万5,000円のレンズ
上記レンズでの作例
上記レンズでの作例

メーカー乗り換えが深すぎる沼へのターニングポイントに

お金がかかるイメージのあるカメラ沼ですが、将来を見据えると金銭面での心配はあったといいます。子供の進学を控えていた時期には、節約とダイエットを兼ねて食事回数を減らすこともありました。しかし子供が無事に進学を果たし、気持ちに余裕ができてきた後は、より一層カメラの世界を楽しむようになります。

「子供が進学すると反動かもしれませんが、最初に買った一眼レフカメラ本体と、持っていたレンズ複数本を売りました。そこにいくらかお金を足して、まるっと別のメーカーに乗り換えたんです。一本10万円を超えるようなレンズも何本か買って。乗り換えついでにいっぱい購入しちゃいました。このあたりから自分の金銭感覚がおかしくなり始めたかなって思いましたね。『これは何かヤバいのが始まっているな』って」

乗り換えたカメラとレンズ
乗り換えたカメラとレンズ

toshibooさんはこの乗り換えをきっかけに、ブログを開始。書いて発信するという新たな楽しみを見つけたほか、1年ほど経つと、ブログへ掲載した広告から収益も得られるようになりました。ここから一層、沼への投資が加速していきます。

「ブログを書きたいがために、レンズを買っちゃうことも増えました。自分でレンズにいくら使ったのかを考えてしまうと、よくこうやって生活できているなと思うこともありますよ。買うときも『このレンズ、高いなあ……』って思いながらも連続して何本も買っちゃうことがあるし。でも普通に生活できているくらいには、大きなお金の失敗もせずに楽しめています」

カメラをきっかけに同志と出会うことも

カメラをきっかけに同志と出会うことも
友人と撮影した星空

これまでは交流がなかった地元の人と仲良くなることも、カメラ沼の界隈ではあるようです。公園など自宅から近い撮影スポットでよく顔を合わせる人同士で焼肉を食べに行くようなこともあり、趣味をきっかけに交友が広がるといいます。

「カメラ仲間から突然『星を撮りに行こう!』って連絡が来ることもあるんです。星を撮るときは、雲の状態とか天気が関わってくるので前日までに連絡し合って、集まるんです。星の撮影はカメラを三脚に固定して、長秒シャッターを連続で長時間行うことが多いので、本体を動かすことはあまりありません。撮影中、人間はやることがないんです。だからキャンプ道具を持っている友達が外でコーヒーを入れてくれたり、みんなでわいわい情報交換したり、いろんな話をして過ごす。こうやって集まって盛りあがることも、楽しみの一つです」

友人と撮影した朝の風景写真
友人と撮影した朝の風景写真

SNS上で『今日、朝焼けを撮りに行くんだけど、誰か行かない?』という投稿があると、そこにリプライが集まってみんなで撮影に行くこともあるのだとか。

「SNSだけの接点の方とも、カメラを通じて仲良くなることはよくあります。『次はこのレンズを買おうかな』とか投稿すると、まだ購入すると決めたわけでもないのに『おめでとうございます!』って買った体でいわれて、悪ふざけし合うこともあります(笑)。あとは作品写真を投稿したときよりも、カメラとかレンズを購入したときの段ボールの写真をアップしたときの方がウケが良かったりするのも、芸術家志望とはまた違うカメラ沼ならではのすごくおもしろい空気ですよね」

またtoshibooさんのもとへ、ブログを読んだ人から、記事の感想や次に買うレンズの相談が来ることも珍しくないそうです。

「あまりメジャーじゃない機種を買った人から、僕が書いた記事を参考にして購入しましたというメッセージをいただくことがあるんですが、それがすごく嬉しいんです。書いて良かったなって」

収入以上のレンズを買っても辞めようと思ったことはない

カメラ本体もレンズも1台数万円から、なかには数百万円もする機材もあるため、どうしても費用がかかってしまうカメラの世界。しかし、toshibooさんのカメラ沼にどっぷり浸かる姿勢は、今後も変わりません。

「いろんなレンズを試して感想をブログに書いていく楽しさのほうが、どうしても勝ってしまう。YouTubeも始めましたし、これからももっといろんなカメラやレンズを使っていきたいです」

また、レンズには『オールドレンズ沼』という別の沼が存在するともいいます。古い規格のマウントを持ったレンズのことで、撮影時は被写体を自動的に認識してピントを調節するのではなく、手動で合わせる必要があるそうです。

「沼が深すぎてまだ手を出していないんですが、オールドレンズも種類が多くて奥が深いです。例えば写真を撮ると、光がぶわっと入ったり特徴的なボケ方をしたり、独特な癖が良いんです。今の基準で考えると性能が良いレンズではないんですが、何十年も前のレンズなのに40万円とか50万円はよくある金額。資産価値として高いんですけど、それよりも純粋に触ってみたい欲が強いので、そのうち手を出しちゃうかなって気はします」

深い沼を感じたという約25万円のレンズでの作例
深い沼を感じたという約25万円のレンズでの作例

沼を深める過程が別の楽しみを生み出す

カメラの楽しさは作品を目的に写真を撮影したり、思い出を残したりすることだけではありません。本体を触ることで愛でるほか、toshibooさんのようにブログを書いて多くの人に魅力を伝える楽しさへとつながることもあるようです。

「いろんなレンズを試してブログやYouTubeに投稿したり、同じ趣味の友達ができたり、カメラがきっかけで遊び方が増えました。自分でいうのはおかしいかもしれませんが、最初はカメラにこんなにお金がかかるなんて思っていなかったんですけどね。。沼は人生の価値を高めてくれます!」

この人に聞いてみた
toshibooさん
toshibooさん
アートディレクター/グラフィックデザイナー。
デザインとともに撮影技術を学ぶ。キヤノンフルサイズ機を経て、現在はマイクロフォーサーズ機とLマウント機を愛用。ブログとYoutubeにてカメラ/レンズ/写真をさらに楽しんでいただける情報を発信中。
Blog:toshiboo's camera(外部サイト)
Youtube:toshiboo's channel(外部サイト)
ライタープロフィール
浅井 いずみ
浅井 いずみ
編集者・ライター。ペロンパワークス・プロダクション所属。漫画・アニメ・映画などポップからサブカルチャーまで幅広いエンタメ分野の記事執筆・コンテンツ制作に携わる。

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