2000年生まれの科学者・村木風海が二酸化炭素とともに描く明るい未来とは?

2000年生まれの科学者・村木風海が二酸化炭素とともに描く明るい未来とは?

2000年生まれの科学者・村木風海が二酸化炭素とともに描く明るい未来とは?

地球温暖化への影響が大きいといわれる二酸化炭素。村木風海さんは、二酸化炭素を集める機械の開発や、そこからエネルギーを作る研究を行っています。根底にあるのは、幼き日に抱いた「火星に住む」という思い。村木さんの壮大な挑戦についてうかがいました。

東京大学に籍を置く現役大学生でありながら、一般社団法人 炭素回収技術研究機構(CRRA)の代表理事・機構長を務める村木風海さん。幼いころに抱いた宇宙への憧れをきっかけに、地球温暖化をストップさせるべく研究・開発を行ってきました。

環境破壊は人類にとって急務の課題。特に地球温暖化の問題は深刻で、今この瞬間に世界中の二酸化炭素の排出を完全にストップさせたとしても、海面上昇は西暦3000年まで続くといわれています。そこで、村木さんは問題解決のために「二酸化炭素の排出をストップさせるのではなく、空気中の二酸化炭素を回収してマイナスにする」という考えに至りました。

そこで、当時まだ高校生だった村木さんが開発したのが、二酸化炭素を回収するマシーン「ひやっしー」。2017年には、総務省の「異能vation(※)」にも採択されるなど注目を集めています。

※異能vation……総務省がICT分野において破壊的な地球規模の価値創造を生み出すために、大いなる可能性がある奇想天外でアンビシャスな技術課題への挑戦を支援するプログラム


「2030年までに全世界の二酸化炭素を半分に減らしたい」と語る村木さん。そして、その先には「火星に移住する」という、さらに壮大な野望を抱いています。

前人未到の夢に向かい突き進む村木さんに、これまでの挑戦の過程や、自身が見据える地球の未来についてうかがいました。

【この記事で想像できる未来】

理想:
二酸化炭素から新たな燃料を作る技術を確立させ、地球温暖化を止める

実現:
二酸化炭素を回収するマシーン「ひやっしー」を開発

もしかしたらの未来:
人類で初めての「火星人」になり、宇宙を開拓し続ける

【プロフィール】

村木風海(むらき・かずみ)さん
2000年生まれの科学者。東京大学教養学部理科I類に在学中。一般社団法人 炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長。小学生の時から地球温暖化を止め、人類の火星移住を実現すべく活動。2017年には高校生にして総務省主催の「異能vationプログラム」に採択。2019年には「Forbes Japan 30 UNDER 30 2019 サイエンス部門」を受賞。

原点は「宇宙」への憧れ

――地球温暖化を止めるために日々研究をされている村木さんですが、そうした問題意識を持つに至ったきっかけを教えてください。

村木:実は、始めから地球温暖化に問題意識を持っていたわけではありません。そもそものきっかけは、小学校4年生のときに祖父からスティーヴン・ホーキング博士の冒険小説『宇宙への秘密の鍵』をもらったこと。それを読み、まずは宇宙に興味を抱きました。

――どんな内容の本だったのでしょうか?

村木:当時の僕と同じ年くらいの子供が、宇宙旅行をするというストーリーです。そのなかで、人類が地球以外に住める可能性が最も高い星が「火星」と書かれており、広大な赤い砂漠を目の前に青い夕日が沈んでいく光景が紹介されていました。これを見た瞬間、宇宙の神秘に心を奪われたんです。以来、僕も火星に行きたいと思うようになり、いつしか火星移住にまつわる研究をするようになりました。

原点は「宇宙」への憧れ

――研究のスタート地点は地球温暖化ではなく「火星」だったんですね。

村木:はい。それで調べていくと、火星は大気の95%が二酸化炭素で占められていることを知りました。ということは、人が住めるようにするためには、まず二酸化炭素をどうにかしなければならない。そこで、二酸化炭素を集めて、酸素に変える仕組みが必要だと考えたんです。

――当時は、どんな研究をされていたのでしょうか?

村木:最初は、ペットボトルのなかに「火星の環境」を再現する実験です。ペットボトル内に雑草と一緒にドライアイスを入れ、二酸化炭素を充満させました。そして、そのなかで植物がどのくらい生きられるのかを調べたんです。植物は光合成をしますが、二酸化炭素濃度が100%の環境下ではさすがに枯れてしまうだろうと予想しました。しかし、3日経っても雑草は生き生きとしていたんです。おまけに、かなりの量の酸素も生成していたことが分かりました。

――それは驚きですね。

村木:そこで僕が思ったのは、「二酸化炭素って面白い」ということ。もう心が躍ってしまい、以来、かれこれ11年間におよぶ“二酸化炭素マニア”になりました(笑)。

――火星の次は、二酸化炭素の虜になってしまったと。

村木:はい(笑)。そして、二酸化炭素を調べていくうちに気候工学の本にも出合いました。その時、自分がやっている二酸化炭素の研究は、火星に行くだけじゃなく地球温暖化の解決にも役立つことに気付いたんです。そして、「科学の力で人工的に地球を冷やす」という気候工学の考えのもと、二酸化炭素を空気中から直接回収する研究を開始しました。つまり、火星に住むという夢から派生し、地球温暖化を止める研究へとつながっていったんです。

科学の凄さを「ゆるふわな観点」で伝えたい

――小学生で研究を始め、高校生の頃には総務省の「異能vation」にも採択されています。そこで開発したのが、二酸化炭素を回収するマシーン「ひやっしー」ということですが、採択から開発までの経緯を教えてください。

村木:実は「ひやっしー」の原型部分である、二酸化炭素を回収する装置自体は中学3年生の頃に完成していました。海外には広大な土地を生かし、巨大な装置で二酸化炭素を回収する工場のようなものはありましたが、僕はそれを一家に一台置けるくらいのサイズ、それこそ加湿器や空気清浄機のようにお手軽なものにできないかと考えたんです。

科学の凄さを「ゆるふわな観点」で伝えたい

――その装置を製品として実用化するには、まとまった資金が必要ですよね。

村木:はい。研究費はもちろん、特許の取得や製品化までを想定すると100万円は下らない。正直、頭を抱えていました。その時に母から勧められたのが「異能vation」でした。ダメ元で応募してみたところ奇跡的に採択され、年間300万円の支援を受けられることになったんです。そこから、コンパクトにすることはもちろん、性能を高める研究を重ねていきました。現在では樹齢80年の杉の木およそ5本分の二酸化炭素回収能力を持つまでに向上しています。

樹齢80年の杉の木およそ5本分の二酸化炭素回収能力を持つまでに向上しています

――このコンパクトなボディにそんなパワーが秘められているとは。ちなみに、「ひやっしー」という名前も、かわいい顔がついた見た目もユニークですよね。また、なぜかAIを搭載し“おしゃべり機能”もつけるなど、性能面だけでなく“楽しさ”という点もかなり意識されているようですが。

村木:科学は専門用語が多く、伝わりづらい分野です。そもそも、世の中の大多数の人は文系ですし。でも、せっかく優れた技術があるのに伝える努力を怠ったせいで世間から関心を持ってもらえなかったり、日本の科学が世界から注目されずに取り残されるのは悔しい。何より、環境問題に関心を持ってもらうためには、圧倒的な分かりやすさと親しみやすさが必要だと考えたんです。楽しく科学のことを伝えていければ、日本の技術はさらに進化するはず。だから、僕はあえて“ゆるふわ”な観点で科学を語ろうと、「ひやっしー」という名前をつけ、人工知能を搭載してお話ができるようにしました。周囲の二酸化炭素濃度に応じて、顔の表情を変化させる機能も付いています。

――人工知能のプログラムも村木さんが作ったんですか?

村木:はい。独学でやりました。あれは忘れもしない2017年12月5日。雪の夜に家で実験をしていたら、真っ暗な中でディスプレイが光り「ひやっしー」の顔がパッと現れました。そして、僕に向かって「こんにちは」と話しかけてくれた。あの瞬間は、本当に泣きそうになりました(笑)。

すべての乗り物の燃料を、二酸化炭素から作る

――室内の二酸化炭素濃度が高まると、集中力が下がるともいわれています。「ひやっしー」で空間の二酸化炭素を回収することで、集中できる空間をキープできるメリットもあるのでしょうか?

村木:そうですね。ハーバード大学の論文によれば、室内の二酸化炭素濃度が高まると、分野によっては集中力が4分の1まで減少し、生産性も金額に換算して年間65万円も下がるそうです。特に、寒い冬や花粉症の時期って窓が開けられず、換気ができないですよね。すると、だんだん頭がボーッとしてきませんか? 「ひやっしー」を置いておけば換気をしなくても二酸化炭素濃度の上昇を抑えられますし、空気清浄フィルター(0.1マイクロメートルより大きい微粒子を捕捉可能)も搭載しているため、新型コロナウイルスが付着した微粒子をはじめ、花粉、黄砂、PM2.5などもキャッチしてくれるんです。

――もはや家電ですね。集めた二酸化炭素はどうするのでしょうか?

村木:回収した二酸化炭素は様々なシーンで役立てることができます。例えば、農業用ビニールハウス内の二酸化炭素濃度を濃くするだけで作物の育ちが30%アップし、美味しい野菜や果物が作れます。また、僕は今、この世のすべての乗り物の燃料を二酸化炭素から作る「そらりん計画」を企て、研究を進めています。

――全ての乗り物とは、これまた大きな目標ですね。

村木:はい。それくらいのインパクトがないと、環境問題は解決できません。というのも、地球温暖化のタイムリミットは、あと10年足らずなんです。2030年までに全世界で排出されている年間330億トンの二酸化炭素を半分にしなければ、異常気象がさらに増加し、生態系が連鎖的に壊れ、食糧危機が訪れるなど、様々な問題が起こるといわれています。

とはいえ、二酸化炭素の排出量を半分にするには、全ての乗り物を止め、企業活動や工場の稼働を停止しなければならない。さすがに、それは現実的ではないですよね。そこで、僕は化石燃料で動く乗り物自体はそのままに、燃料の方を変えてしまえばいいと考えました。

――それが「そらりん計画」であると。

村木:はい。具体的には集めた二酸化炭素から直接エタノールを作り、ロケットの燃料やレーシングカーなどの燃料に変換する計画です。さらに、エタノールから軽油と同じ成分の燃料を作り、トラックや船などディーゼルエンジンの乗り物を動かすことが可能になります。入れる燃料を変えるだけなので、新しい車を購入する必要はありません。まずは環境への負荷が大きいディーゼルエンジンから着手し、ゆくゆくはガソリンに変わる燃料も研究・開発していきたいです。

――実現すれば、空気中の二酸化炭素が全て資源になる。

村木:日本に油田はありませんが、日本人の科学技術を持ってすれば、空気を油田に変えることができます。二酸化炭素は「悪者」という印象が強いと思いますが、使い方次第では社会問題を解決する希望になり得る。そのためにも、「ひやっしー」をさらに普及させていきたいですね。

人に否定されればされるほど、成功できると思える

――二酸化炭素をエネルギーに変換する技術ができれば、火星に行くという村木さんの夢も現実味を帯びてきますね。

村木:その通りです。現状では地球から火星に行くまでに約半年かかり、ロケットの燃料も片道分しか積み込むことができません。しかし、火星で二酸化炭素を集めエネルギーに変換できれば、帰りの燃料も確保できる。現在の研究を進めることは、確実に火星移住への野望につながっているんです。具体的には2045年までに火星へ行きたいと思っています。ちなみに、地球人が火星に住めるようになれば、人口爆発による食糧危機や異常気象など、ほとんどの社会問題を解決できる。そう思っています。

人に否定されればされるほど、成功できると思える

――環境問題や食料問題などは、いずれも深刻な課題ですが、村木さんはどこか楽しそうに語られているのが印象的です。それはやはり「火星が好き、二酸化炭素が好き」といった、好きな気持ちが発端になっているからなのでしょうか?

村木:環境問題の話って、「我慢しなきゃいけない」とか「ボランティア」といったイメージが強いと思うんですけど、僕はそうじゃないんです。僕にとって地球の問題を解決することは、宇宙を開発することにつながっている。とてもワクワクするんですよ。ネガティブなことよりポジティブな動機のほうが、強い推進力を生んでくれると思うので、基本的には楽しく取り組んで行けたらと思いますね。

――「地球や人類を背負う」とかではなく、あくまで自分が楽しいからやるんだと。

村木:はい。僕は人類で最初に火星に行った人になるし、地球温暖化を止めた男にもなるつもりです。でも、英雄扱いされたくはないから「え、地球温暖化? 昨日止めたけど?」みたいな軽いノリで報告したいなって思います。火星に着いた瞬間も「火星到着なう」とツイートしたいですね。そのほうが面白いじゃないですか(笑)。

――軽い(笑)。ちなみに、そのまま火星に住み続けるんですか?

村木:いえ、火星がゴールではなくて、今度はエウロパとかタイタンとか、もっと先の衛星に挑みたい。太陽系の果てまで冒険するつもりです。とはいえ、僕の名前に付いている通り、地球の「風」と「海」も大好きなんです。だから、地球はいつでも安心して戻ってこられる「実家」のような場所にしたいですね。理想は、地球と火星の二拠点居住です。

▲村木さんが「機構長」を務めるCRRAの組織図
▲村木さんが「機構長」を務めるCRRAの組織図

――お話を聞いていると、こちらまでワクワクしてきます。ただ、なかには「無謀な計画」だと批判する人もいたのではないですか?

村木:昔からずっと白い目で見られてきましたよ。指導教官に「お前の研究なんて何が面白いんだ、今すぐやめろ」と言われたこともあります。でも、こっそり目を盗んで実験してみたら、たまたま上手くいったんです。そんな小さな成功が何度も続いていくうちに、「もしかしたら、僕は人に否定をされればされるほど、成功できるんじゃないか?」と思えるようになっていきました。

――本当に前向きですね。自分をどこまでも信じ続けられるその強さは、どこから生まれてくるのでしょうか?

村木:小学校の恩師からいただいた「Find your compass, set your sails(羅針盤を見つけろ、そして帆を張り、風を受けろ)」という言葉が、僕のなかにずっと残っているんです。自分の目標を見つけて、チャンスを逃さず掴めという意味ですね。僕にとっての羅針盤は、地球を救って火星へ行くこと。それがはっきり見えた時から、実現することしか考えていません。実現したい、ではなく、実現します。できない理由を探すより、できる理由を探していきたいんです。

ライタープロフィール
小野洋平
小野洋平
編集者・ライター。水道橋の編集プロダクション「やじろべえ」所属。住まい・暮らし系をはじめ、グルメ系、旅行系、マネー系等のメディアで活躍。
WEBサイト:50歳までにしたい100のコト(外部サイト)

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