美味しいチョコレートを未来の子どもたちに~カカオ・トレースの挑戦

美味しいチョコレートを未来の子どもたちに~カカオ・トレースの挑戦

  • サムネイル: 相山 華子
    ライター
    相山 華子
美味しいチョコレートを未来の子どもたちに~カカオ・トレースの挑戦

世界中で愛されるチョコレート。実は今、その原材料であるカカオの安定供給が危ぶまれています。このまま何もしなければ、美味しいチョコレートを食べられなくなるかもしれない…、そんな危機感から始まった取り組み「カカオ・トレース」をご紹介します。

増え続けるチョコレートの消費量

増え続けるチョコレートの消費量

カカオの実(カカオポッド)。
白い部分がカカオの果肉で、その中にカカオ豆が入っている

最近は美味しさだけではなく、美容・健康効果の面でも注目を集めているチョコレート。その需要は世界的に増え続けており、日本でも1987年に17万3,169トンだった年間消費量が、2017年には実に10万トン以上も増えて27万4,967トンに。日本人1人あたり年間2.16kgものチョコレートを食べていることになります(※)。

ご存知のとおり、チョコレートの原材料はカカオ豆。アフリカや東南アジアなど湿度の高い熱帯性気候の地域で育つテオブロマ・カカオという植物の種です。一つひとつ手作業で収穫されたカカオ豆は、1週間ほど自然発酵させた後、天日乾燥した上でチョコレート業者に出荷。そこで砂糖などと合わせて加工され、「チョコレート」として消費者のもとに届けられます。私たちが日常的に美味しいチョコレートを味わうことができるのは、カカオ豆が安定して生産・供給されているからにほかなりません。しかし、近年、多くのカカオ産地で農家の「カカオ離れ」が報告されています。

日本チョコレート・ココア協会調べ

チョコレートの「ほろ苦い現実」

チョコレートの「ほろ苦い現実」

コートジボワールのカカオ農村

農家の「カカオ離れ」の背景にあるのは、深刻な貧困問題です。一般的にカカオ農家の1週間の収入は、「先進国で売られているチョコレートバー1本の平均価格にも満たない」といわれており、例えば世界最大のカカオ生産国・コートジボワールのカカオ農家の収入は、1日平均1米ドルほど。世界銀行が定めた貧困ライン(1日1.9米ドル)を下回っています(2019年11月現在)。

以下の写真はコートジボワールのカカオ農村の様子を写したものですが、これらを見るだけでも、現地の貧しさを伺い知ることができます。先進国に住む私たちが美味しいチョコレートを楽しんでいる一方で、その原材料の生産者は貧しさゆえの過酷な生活環境や児童の労働、基礎学力の欠如といった様々な問題に直面しているのです。

農家の女性。屋外のかまどで煮炊きをする

農家の女性。屋外のかまどで煮炊きをする

台所の様子。水道や電気、ガスの設備はない

台所の様子。水道や電気、ガスの設備はない

道は舗装されておらず、雨季には交通が遮断される

道は舗装されておらず、雨季には交通が遮断される

女性は15歳前後で結婚。7~8人の子ども     を生むことも珍しくない

女性は15歳前後で結婚。7~8人の子どもを生むことも珍しくない

村の学校。教科書や筆記用具が不足している

村の学校。教科書や筆記用具が不足している

最近では、この貧困から脱け出すために、カカオ農家を継がずに都市部に働きに出る若者や、カカオよりも高く売れるほかの作物に転作する農家が増え、農家の「カカオ離れ」が深刻になってきています。このままでは、世界中で増え続けるチョコレートの需要に見合うだけのカカオを供給できなくなるおそれがある、と指摘されています。

美味しいチョコレートとカカオ生産者の未来のために

美味しいチョコレートとカカオ生産者の未来のために

カカオ・トレースで作られたチョコレート

この状況に危機感を抱いたのが、パン、チョコレート、洋菓子の分野で業務用原材料の製造・販売を手掛ける、ベルギー発祥のグローバル食品メーカー、ピュラトス(Puratos)です。

ピュラトスはカカオ生産者が抱える貧困問題の要因の一つに「栽培技術の未熟さ」があると分析、2014年に栽培技術の向上を通じて生産者を支援する独自のサステナブル・プログラム、「カカオ・トレース」を立ち上げました。

カカオ・トレースの取り組みは、大きく分けて①栽培技術支援、②発酵マイスターによる管理、③農家の収入増を促進する「チョコレート・ボーナス」の3つ。この3つを同時に行うことによって生産効率の向上と生産者の収入増を実現し、結果として高品質なカカオ豆の安定供給の持続をめざすものです。

① 栽培技術支援

カカオ・トレースの研修を受けるコートジボワールの生産者たち

カカオ・トレースの研修を受けるコートジボワールの生産者たち

従来、カカオ栽培は生産者がそれぞれ自己流で行っていたため、生産効率が低く、生産量や品質にムラがありました。そこでピュラトスでは現地にカカオ栽培の専門家を派遣し、生産者にトレーニングを施すことによって栽培効率の向上を図っています。例えばコートジボワールでは、2017年だけで799人の生産者が195もの研修に参加、結果として収穫量の2~3倍増を実現した生産者も出てきています。

② 発酵マイスターによる管理

カカオ豆を木箱に入れ、バナナの葉や麻袋をかぶせて発酵させる

カカオ豆を木箱に入れ、バナナの葉や麻袋をかぶせて発酵させる

カカオ豆の収穫~出荷までのうち、最も重要とされるのがチョコレートの風味を左右する「発酵」の工程です。カカオ・トレースでは各生産地に「ポストハーベストセンター」を設置し、カカオ発酵の専門家である「カカオマイスター」の指導のもと、発酵の方法や時間を一元管理する体制を整備しました。単にカカオ豆の生産量を増やすだけでなく、美味しく質の高いチョコレート製品を作ることが、結果として生産者の収入増と生活水準向上につながるのです。

ポストハーベストセンターで働く生産者。女性にも雇用の機会が生まれた

ポストハーベストセンターで働く生産者。女性にも雇用の機会が生まれた

③ チョコレート・ボーナス
チョコレート・ボーナスは、カカオ・トレース認証製品(カカオ・トレースプログラムで栽培されたカカオ豆を使用したチョコレート)が1kg購入されるごとに、10セント(米ドル換算)がカカオ生産者やそのコミュニティに還元されるシステムのこと。カカオ豆の対価とは別途支払われるので、生産者にとっては、文字通り、嬉しい「ボーナス」になります。しかも、カカオ・トレース認証のチョコレートが売れれば売れるほどボーナスを多く手にすることができる仕組みなので、生産者のモチベーション向上も期待できます。

2018年には約28万8,000ユーロ(約3,650万円)がチョコレート・ボーナスとして、ベトナム、フィリピン、コートジボワールの生産者計約8,000人に還元されました。カカオ・ボーナスには、収穫量に応じた額が現金で生産者に支払われるケースと、コミュニティのインフラ整備や教育への投資として還元されるケースとがあり、いずれも生産者の生活水準向上に役立てられています。

コミュニティに還元されたカカオ・ボーナスで設立した小学校(コートジボワール)

コミュニティに還元されたカカオ・ボーナスで設立した小学校(コートジボワール)

チョコレートに関わるすべての人をハッピーに。未来につながるチョコレートを選ぼう

チョコレートに関わるすべての人をハッピーに。未来につながるチョコレートを選ぼう

カカオ・トレース認証製品を表すトレードマーク

カカオ・トレース認証製品を使用したお菓子やパン、チョコレートは、日本でも多くの洋菓子店やベーカリー、チョコレートメーカーで販売されています。目印は、カカオの木をモチーフにしたトレードマーク。このマークがついている商品を購入すれば、それだけでカカオ生産者への支援、そして「美味しいチョコレートが食べられる未来」への貢献になります。

チョコレートに関わるすべての人をハッピーに。未来につながるチョコレートを選ぼう

ピュラトスジャパンでカカオ・トレースを担当する長瀬真弓さんは、次のように話しています。

「もちろん、カカオ生産者への支援を行っている企業はピュラトスだけではありません。でも、単なる生産者支援だけではなく、カカオ豆の質の向上や美味しいチョコレート作りにも同時に取り組んでいるのは、私たちピュラトスならではのこだわりです。美味しいチョコレートを食べると、ハッピーな気持ちになりますよね。そのハッピーな気持ちの対価を確実にカカオ生産者に還元できれば、生産者もハッピーになるはず。食べる人も作る人も、チョコレートに関わるすべての人をハッピーにしたい、そして美味しいチョコレートがつなぐハッピーサイクルを作りたい。これこそが私たちピュラトスの願いです」。

チョコレートに関わるすべての人をハッピーに。未来につながるチョコレートを選ぼう

今は、日本にいながらにして世界中のチョコレートを味わえる時代。ブランドやパッケージのデザイン、価格やボリュームなど、チョコレートを選ぶ基準はたくさんありますが、機会があれば、生産過程に着目して選んでみてください。カカオ・トレースをはじめ、何らかの支援プログラムを通じて生産された製品なら、カカオ豆の原産地や栽培条件についても知ることができます。消費者一人ひとりが生産者に思いを馳せ、彼らの幸福を願うことが、「美味しいチョコレートを食べられる未来」を作るための、一助となるはずです。

【取材協力・画像提供】
ピュラトスジャパン株式会社

ライタープロフィール

未来想像WEBマガジン

相山 華子
慶應義塾大学卒業後、民放テレビ局の報道部記者を経てフリーランスのライターに。雑誌や企業誌、ウェブサイトなどで主にインタビュー記事を手掛ける。